勝ち抜く中小経営への強化書

働き手の気持ちに応える離職防止策 日本政策金融公庫総合研究所 主席研究員 海上 泰生

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

一人ひとりの悩みや意向に配慮した組織体制

 ここからは、離職防止に取り組む企業の具体的な事例をもとに、人材の定着に有効な、給与の引き上げ以外の方策についてみてみましょう。

 若手社員が1人で悩みを抱え込み、誰にも相談できずに離職に至るケースは多いといわれます。その対策として、例えば、A社(産業機械製造業、千葉県)では、悩みの原因が、身近な上司や先輩社員との関係にあることが多い点を考慮し、あえて隣の部署の先輩社員などをメンター(相談相手)に指名しています。そして、月に2回はメンター全員を集めて専務と人事部がヒアリングを行い、問題があれば解決策を探ります。

 人間関係のほかに、将来の不安を訴えるケースも少なくありません。特に、転勤や配置転換によって、その後の処遇が不透明になることは、当人にとって大きなストレスです。前述の離職経験者へのインタビューでも、今後のビジョンやキャリアパスが明確に示されていたら離職しなかったという声が聞かれました。

 この点で、例えば、B社(美容業、福岡県)は各人の経験年数や技術レベルに応じて、段階を踏んで成長できるキャリアパスやプランを示しています。美容師のなかには、実家が美容院で、帰る場所があるという人が多く、勤務先で自らの将来像をきちんと描けなければ、簡単に辞めてしまう傾向があるといいます。そのためにも、チーフ、店長、経営幹部へと昇進していくための明確な基準を示さなければなりません。美容師として経験を積み、すでに技術面で一人前になった人には、社長自ら教示する経営講習を受けてもらい、店舗経営という次の段階の目標に進むよう導きます。店長として経験を積んだ人には、会社全体の運営という、また次の目標が用意されています。このように、「この会社にいれば、常に成長の機会がある」と従業員に思ってもらうことが、有効な離職の防止策になるのです。

 かつて離職者が増えた時期があったC社(自動車部品製造業、愛知県)では、離職者にアンケートをとったところ、離職理由として「自身の先行きが見えない」という回答がありました。同社では、手順どおり忠実にこなす仕事が中心で、キャリアアップの具体的な形が見えづらかったからです。そこで、将来の昇進や昇給への見通しをより明確にするため、キャリアマップを作成するようにしました。さらに、現在では、社員の多様な活躍を促すため、5~10種類のキャリアパスの選択肢を示せるよう準備を進めています。具体的には、子会社の社長になる、管理職になる、大学に派遣されて博士課程で学ぶ、技能士など仕事に即した資格を取得する、などの選択肢が挙げられます。

閲覧履歴

    クリッピングした記事

    会員登録後、気になる記事をクリッピングできます。