勝ち抜く中小経営への強化書

働き手の気持ちに応える離職防止策 日本政策金融公庫総合研究所 主席研究員 海上 泰生

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 今日のように、雇用の非正規化が進み、望んでも安定した雇用形態がなかなか得られない人が増えているなか、今ある正社員の立場をあえて捨てるのは、よほどのことといえます。収入面だけでなく、ほかにも何らかの要因が加わることで、離職行動に対する抑止が外れるケースが多いと考えられます。

 経営者の対応として、社員が望むとおりに給与の引き上げができるのなら、離職の防止に一応の効果があるでしょう。ただ、大きな原資を必要とする給与の引き上げには、なかなか踏み出しにくく、特に、厳しい経営環境下にある中小企業の経営者にとっては容易なことではありません。

 仮に給与を引き上げて、収入面で不満をもつ社員をなんとか引き留めたとしても、もっと給与の高い他社が現れれば、いずれ辞めてしまう可能性が高いと思われます。同じ業界で常にトップクラスの給与水準を保てるならよいでしょうが、現実的には困難です。給与の引き上げに努めると同時に、ほかの方策も合わせて講じる必要があります。

対話があれば防げた離職も多い

 離職の防止策を考えるに当たっては、実際に離職をした人の声にヒントが隠されているはずです。そこで、就業者を対象とするインタビュー(※2)を実施し、そのうち、離職経験者に「仮にどのような手立てがあったなら前職を辞めなかったか」を尋ねました。その結果、「職務を追加された理由を社長や上司が詳しく説明してくれて、どんな不安をもっているのか聞いてもらえていたら」「自分の話を聞いてくれる時間を設けてもらえていたら」「ビジョンやキャリアパスが明確に示されていたら」といった声が聞かれました(表)。「理由や背景を説明する」「話を聞く」「方向性を明確に示す」ということが、重要なポイントになっています。

 一方、「賃金は上がったが、辞めたい人は辞めた」との指摘もありました。賃上げが大事なのは間違いないでしょうが、まずは対話をすべきだということかもしれません。

(※2)対象はアンケートの回答者から、インタビューへの協力依頼に応じてもらった人。実施時期は2017 年11月。勤務先の業種、職種などのバランスを考慮し、日本政策金融公庫総合研究所とみずほ総合研究所(株)が共同で実施。

表 離職を防ぐために有効な手立て(離職経験者へのインタビュー)

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