小さなサービス産業の高付加価値経営

サービス産業の生産性はなぜ低いのか 日本政策金融公庫総合研究所 主任研究員 藤田 一郎氏

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 このほか、日本特有の文化や行事による需要変動もあります。七五三や成人式の前後に多くの客が訪れる理美容店や写真店なども、消滅性の問題に直面しやすいといえます。

 (4)異質性

 マッサージ店や理美容店などでは、書き入れ時に限って従業員を増やすことで消滅性に対応できるかもしれません。しかし、これを困難にするのが四つ目の「異質性」です。

異質性とは、サービスを提供する人によって品質が変わることを示しています。マッサージ店の場合、経験豊富な人はそうでない人に比べてツボを見つけるのが早かったり、力加減が絶妙だったりするでしょう。

 ですが、繁忙期だけ一時的に従業員を雇おうとしても、一定の技術水準を満たす人材を獲得できる可能性は低いでしょう。経験豊富な人材はすでに別の企業で定職を得ていることが多いからです。そのため、一時的に人員を手当てしようとしても、結果として企業全体のサービス水準の低下につながる可能性が高く、時機に見合った人員の手当てが難しくなっているのです。

 ここで一つ注意したいのが、異質性の比較対象です。サービス産業の特性の文脈で語られる異質性は、企業内部でのことを指すことがほとんどです。したがって、スタッフ間のサービス水準は極力近付けたいとなるわけです。

 他方、同業他社と比較した異質性もあります。これは独自性や新規性と言い換えられるでしょう。サービス産業に限らず中小企業にとっては、独自性が大きな武器になります。社内の異質性を排除しようとした結果、業界内での独自性まで失うようなことは避けたいところです。

* * *

 連載第1回では、サービス産業の生産性がなぜ低いのかについて考えました。サービス産業が生産性を高めていくためには、業界の常識やサービス産業の特性を打ち破って、高付加価値を生み出していく必要があります。はたして、そのポイントはどこにあるのか。次回から、企業事例をもとに考えていきます。

<参考文献>

消費者庁(2016)『平成28年版消費者白書』勝美印刷

中小企業庁(2016)『2016年版中小企業白書』日経印刷

内藤耕(2010)『実例でよくわかる!サービス産業生産性向上入門』日刊工業新聞社

延岡健太郎(2017)「顧客価値イノベーションによる価値づくり経営」日本政策金融公庫総合研究所『日本政策金融公庫調査月報』No.111、pp.4-15

※本連載は、日本政策金融公庫総合研究所編『サービス産業の革命児たち―低生産性の呪縛に打ち克つ―』(同友館、2018年)の一部を抜粋・再編集したものです。(https://www.doyukan.co.jp/store/item_053641.html)
藤田 一郎(ふじた・いちろう) 日本政策金融公庫総合研究所 主任研究員。2005年慶應義塾大学経済学部卒業後、国民生活金融公庫(現・日本政策金融公庫)入庫。近年は中小企業の経営や創業に関する調査・研究に従事。最近の著書に『躍動する新規開業企業-パネルデータでみる時系列変化―』(共著、勁草書房、2018年)がある

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