小さなサービス産業の高付加価値経営

サービス産業の生産性はなぜ低いのか 日本政策金融公庫総合研究所 主任研究員 藤田 一郎氏

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無形性・同時性・消滅性・異質性

 こうした理由から、商品によって従業者1人当たり売上高や原価率は似たような水準に収束してしまい、業界平均から抜け出すこと、つまり生産性を高めることが難しくなってしまうのです。

 また、サービス産業には四つの特性があるとされています。「無形性」「同時性」「消滅性」「異質性」です(内藤、2010)。これらはサービス産業の高付加価値化を阻む要因といってよいでしょう。順にみていきましょう。

 (1)無形性

 サービスには目に見える形がないため、購入前にサービスを試すことができない。これが一つ目の特性「無形性」です。マッサージを受けるケースを考えてみましょう。マッサージを受ける方法は大きく二つあります。一つはマッサージチェアを使うことです。家電量販店にはたくさんの商品が並んでいますから、1台ずつ使い心地を試していけば、自分が求める品質を満たすチェアに出合うことができます。

 もう一つの方法はマッサージ店に行くことです。この場合、お店に行き、お金を払うことでマッサージを受けるわけですが、実際にサービスを受けるまで施術者の腕の良しあしを知ることはできません。

 無形性の問題は、サービスの価格設定を難しくします。サービスの提供側はできるだけ高い価格を付けたいところですが、価格に見合った品質を形で示すことができないからです。

 (2)同時性

 二つ目はサービスの生産と消費が同時に行われる「同時性」です。同時とは時間に加え、同じ空間でサービスが行われることを示しています。先の例でいえば、マッサージチェアの生産者と消費者は同じ時間・空間にいる必要がありません。他方、マッサージ店の場合は、施術者と消費者が同じ時間、同じ空間にいることでサービスが成立します。

 同時性は稼働率の問題に直結します。マッサージ店は、施術者が店にいることで営業できますが、顧客が来店しない限り、売り上げは発生しません。他方、施術者が待機している間も人件費や店舗の家賃、光熱費といった経費は発生しますから、稼働率を高めない限り利益は生み出せないことになります。

 (3)消滅性

 同時性に近い概念ともいえるのが、サービスを在庫として保管できない「消滅性」です。マッサージ店のサービスは「同時性」によって成り立つわけですから、サービスをあらかじめ用意できないことはいうまでもありません。

 このため、消滅性は需要変動への対応を難しくします。典型例が季節性です。仮にマッサージ店がスキー場のロッジのなかにあったらどうでしょうか。スキー客が訪れる冬場であれば、多くの来客が見込めるため、サービスの供給限界まで稼働して売り上げを増やせるでしょう。ところが、暖冬で雪が降らない場合はスキー客が減りますし、そもそも夏場はスキー客がいないため、どこかで別の需要を獲得しない限り、年間を通じたこのマッサージ店の売り上げは、季節性の影響を受けにくい地域にある店よりも低くなる可能性が高くなります。その結果、生産性は低くなります。

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