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プロ棋士が教える毎日のAI利用法 中村王座・片上七段対談「将棋の可能性を読む」(下)

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「将棋の奥深さを再認識」

 ーー将棋AIの急速な進歩を受けて将棋に対する考えに変化はありますか。

 中村「将棋の奥深さが想像以上だったことが分かりました。実戦でも感想戦で気づきもしなかった手が、自宅に戻ってソフトで分析すると示され、実際正しいこともありました」

 片上「しつこくしつこく将棋が終わらない(笑)ですね。実際身をもって経験しました」

 ――ユーザーとしてのソフト改善の注文はありますか。

 中村「評価値は示されますが、その理由は説明してくれません。判断した過程も知りたいと思うことはあります」

 片上「しかし人間が理解できるようなプロセスで答えが出てきていません。人間から見れば何の関係もなさそうな評価軸を積み重ねて評価値が生まれてきています。人間が理解できる形での評価軸でソフトを進化させていくのは難しいでしょうね」

中谷裕教・東大大学院助教に聞く

 ――中谷助教は脳科学に関する理化学研究所と日本将棋連盟の共同研究をリードした専門家のおひとりです。現在の評価は?

 「熟練者の瞬時の理解と判断に関する脳科学的な知見を得ました。チェスを使った認知科学的な研究(反応時間や課題の成績などの行動データから認知的な特性を調べるための研究)が先にあり、我々はその知見に基づいて脳科学的な実験を行いました」

 「今振り返ってみると、直感的な理解と判断についての知見が全くない状態で研究を行いましたので、さまざまな知見を得るための最初の手がかりを得たという感じだと思います。基礎研究は1を100に発展させるより、0から1を創り出すことを目的としていますので、脳科学における意義は大きな知見だったと考えています」

 ――今後の研究課題は「ひらめき」「大局観」といったテーマでしょうか。

 「独創性につながるひためきや大局観に関する脳の仕組みを解明することが今後の大きな目標になります。ただ現状の実験技術ではかなり困難な研究テーマになりますので、時間をかけて地道にアプローチしていくしかないと思います」

 ――将棋AIが普及してプロ将棋が個性も出しにくくなっているといった声があります。一般社会でもヒトがAIと付き合っていくためには避けられないことでしょうか。

 「以前は各棋士はそれぞれ独自のトレーニングをしていたため戦型や形成判断にも個性があったのが、今はみながコンピューター将棋を使って同じようなトレーニングをしているために個性がなくなり、コンピューター将棋が示す最新形ばかりを指すようになったのではないでしょうか。一般社会においても、最近はAIという名前で呼ばれている情報処理技術を、それぞれがどのような使い方をするかによるのではないでしょうか」

(聞き手は松本治人)

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