天下人たちのマネジメント術

陸軍「秋丸機関」が戦後に果たした役割 摂南大学・牧野邦昭准教授に聞く(下)

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「対米英ソ同時戦争」の阻止に役立てる

 ――独ソ戦の開始は日本にも「北進論」を呼び起こしていました。ドイツと呼応して、アジア側からソ連を挟撃しようという作戦でした。

 「秋丸機関は、対米英ソ同時戦争の阻止に役立った可能性があります。ソ連に侵攻しても石油などの戦略物資は期待できません。半年も交戦すれば陸軍の貯蔵していた石油は底を尽いてしまいます」

 「さらにドイツの側に立ってソ連を攻撃すれば、ドイツと戦う英国およびそれを支援する米国と事実上開戦することになります。陸軍内でも意見が分かれていて、秋丸機関は独ソ戦の見通しの厳しさを指摘することで、陸軍省軍務局の北進反対論に理論的裏付けを提供した形になりました」

 「終戦時の鈴木貫太郎内閣で書記官長を勤めた迫水久常は『対ソ戦を始めていたら、(結局対米英ソ戦となって)、敗北した日本は北日本と南日本に分割されていただろう』と回想しています。『陸軍を評価できるとすれば、ソ連の実力を正確に把握していたことだけだ』とも述べていました」

 ――肝心の対太平洋戦争の回避にも役立てられなかったのでしょうか。

 「A 開戦しないと2、3年後は国力を失う

B 開戦すれば非常に高い確率で敗北。極めて低い確率でドイツ勝利・英国屈服で米国は交戦意欲を失い日本と講和

 A・Bの前提で考えると、行動経済学のプロスペクト理論や社会心理学のリスキーシフトでBが選択されやすくなります。日本の経済学者が戦争回避に貢献できたとすれば、Aの予測に日米の巨大な経済格差というネガティブな現実を指摘するだけではなく、ポジティブな将来図も可能性として示すことだったでしょう」

 「秋丸機関はそれが可能だった機関かもしれないと考えています。ドイツの国力は限界でした。ドイツが敗北すれば、今度は高い可能性で米英とソ連との対立が起きることは当時でも予想できました。来たるべき東西両陣営の対立を利用して、日本が開戦しなくても国際的な立場を失わないでいる構想を、経済学者や政治学者を動員して作り上げることは十分できたでしょう」

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