泉田良輔の「新・産業鳥瞰図」

激変する自転車部品業界でシマノを襲う二つの波 テクノロジーアナリスト/GFリサーチ 代表 泉田良輔

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 「テクノロジーの進歩に伴う事業領域の拡大」には、ロードバイク向けの電動変速機の普及、MTBなどの変速を簡素にするフロントシングル化、そしてe-バイク(スポーツバイク仕様の電動アシスト自転車)の普及による電動アシスト自転車メーカーの参入がある。シマノはこれまで機械式の変速ギアシステムにおける高い技術力で市場を席巻していたが、それだけでは勝負できなくなってきているのである。

 まず、ロードバイク向け電動変速機の普及について説明しよう。電動変速機は、自転車のギア変更をモーターとスイッチによって行う技術で、変速操作がしやすくなり、メンテナンスも簡単になる点で優れる。自転車競技のようにスピードを競う自転車で当初採用され、徐々に一般ユーザーへの普及が始まったところだ。しかし、機械式変速機の電動化によってシマノは電動変速機には以前から取り組んでいたものの、新たな競争領域で戦わなければならなくなった。

 電動変速機では、機械式変速機とは異なる競争ルールが生まれている。ライバルSRAMは電動変速機のスイッチとモーターの間を無線通信で結ぶ無線方式の電動変速機を発売して話題となった。これまでの機械式変速機から電動変速機への技術シフトに加えて、ワイヤーによる電動変速機の制御から無線による電動変速機の制御へという、技術シフトが起きたのである。

 次のフロントシングル化は変速ギアのシンプル化といえる。これまでハイエンド市場の自転車ではペダルの位置にある前方変速機(フロントディレーラー)と、後輪の位置にある後方変速機(リアディレーラー)にそれぞれ複数枚のギアを設け、両方の組み合わせで速度と軽快さを制御していた。それが、フロントシングルでは前方変速機のギアを1枚に限定して後方変速機のみで変速することで、変速操作をシンプルにする。ただし、このフロントシングル化は部品点数が減ることを意味するうえ、これまで高い技術力で複雑な変速動作を高精度に実現していたシマノには逆風だ。

 最後に注目したいのがe-バイクの普及である。電動アシスト自転車は日本でも以前から、俗に「ママチャリ」と言われるシティーサイクル(日常生活用自転車)で発売されている。子供を乗せて親御さんが楽々と坂道を登っていくシーンはおなじみだろう。それが最近はロードバイクやMTBなどの総称であるスポーツバイクにも導入され始めた。電動アシスト自転車用システムユニットを製造・販売するヤマハ発動機の2017年12月期通期の決算説明会資料にも、2005年と比べた現在の電動アシスト自転車の顧客層の広がりが示されている[1]

 ただ、この電動アシスト自転車における顧客層の広がりは必ずしもシマノにとって歓迎すべきことではないとみている。電動アシスト自転車用システムユニットでは、ドライブユニット(モーター)、バッテリー、ディスプレー(表示盤)を一体的に提供するが、ドライブユニットには変速ギアシステムが含まれる。つまり、機械式ではシマノの独壇場であった変速ギアシステムの事業領域が、電動アシスト自転車用システムユニットメーカーによって侵食されていることを意味する。

 もちろん、成長市場としてシマノが電動アシスト自転車事業に注力しているのは間違いない。「SHIMANO STEP(シマノ Total Electric Power System)」としてe-バイク向けユニットを供給中だ[2]。ただし、e-バイク市場は日本もさることながら欧州がより大きく、そこではドイツのボッシュが事業を展開している[3]。そうした会社とシマノは競争していく必要がある。

 こうして見ていくと、自転車市場がこれまでのように機械式変速機をコアテクノロジーとして形成されてきたものが、新たなテクノロジーによってその競争要件が変わりつつあるのがわかる。その中で、シマノも機械式だけではなく、モーターやバッテリー、無線技術といった幅広い領域のテクノロジーを駆使して競争力のある製品を開発していかなければならない。

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