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「本能寺の変」のフェイクニュースに惑わされる人々 呉座勇一・国際日本文化研究センター助教に聞く

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 ――秀吉黒幕論や家康黒幕論も、もてはやされました。

 「秀吉の反転があまりに早かったため、秀吉黒幕論が唱えられました。事前に仕組んでいただろうというのです。本能寺の変で最大の利益を得たのが秀吉その人であるのも、黒幕論を補強していました」

 「しかし猛スピードで引き返せたのは主立った騎馬武者の家臣だけで、歩兵は遅れて到着しました。中には光秀との『山崎の戦い』に間に合わなかった兵も大勢いました」

 「家康陰謀論は、まず天下統一を目前にした信長が、同盟者の家康を邪魔に思って謀殺を計画。しかし信長の政策に不満を募らせていた光秀が、逆に陰謀を家康に知らせて味方に引き込み、信長を不意打ちしたというものです」

 「裏付けは明智軍の兵が、本能寺の変で京都への進軍を命じられた際に、最初は家康を討つのかと思ったと、後日言い残した史料があるのみです。信長が家康に本能寺への出頭を命じたという主張にも史料的根拠がなく、想像の域を出ません。さらに当時は関東地方の北条氏が健在で織徳同盟の価値は減少していませんでした」

 「それまで交流もさしてなかった光秀と家康が、信長のお膝元である安土城下で謀議できたとするのも、発想が飛躍し過ぎています」

「教養が高い」と自負する人ほど陰謀論に嵌まる

 ――本能寺の変の真の原因は何だと考えていますか。

 「信長の油断で突然訪れた好機を、光秀が逃さず決起した突発的な単独謀反とみなすべきでしょう。黒幕論は『信長が光秀ごときにやすやす討たれるはずはない』という信長神話の裏返しです。実際の信長は対人関係の構築には上手でなく、信じた家臣に何度も裏切られました。万能の天才ではないのです」

 ――それでも本能寺の変の黒幕論は今でも人気があります。

 「結果から逆算して、全ては黒幕の計画通りに事が運んだと考えた方が、単純明快で受け入れやすいのです。黒幕がいなかったと立証するのは、存在しないことを証明する『悪魔の証明』なので、陰謀論者は言い逃れが可能です」

 「高学歴でインテリ、教養があると自負している人ほど陰謀論を信じやすい傾向にあります。自分の情報収集能力や知的能力に自信がある人ほど、初めて聞く話を過大評価します」

 「さらに『教科書の記述を妄信する一般人と違って私は歴史の真実を知っている』という優越感を、陰謀論は与えてくれます。現代のフェイクニュースを信じる心理にも同じ傾向があるのではないでしょうか」

(聞き手は松本治人)

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