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「本能寺の変」のフェイクニュースに惑わされる人々 呉座勇一・国際日本文化研究センター助教に聞く

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 フェイクニュースにどう対処するか――。ネットの検索エンジンやSNSの発展を背景として飛び交う偽情報が、時には国際政治をも揺さぶっている。しかし、だまされてしまう受け手側の姿勢にも問題があるに違いない。現在でも往々にして見かける「陰謀論」は、いわば日本流フェイクニュース。虚実取り混ぜてさもありなんと思わせる内容が特徴だ。ベストセラー「応仁の乱」の著者である呉座勇一・国際日本文化研究センター助教は新著「陰謀の日本中世史」(角川新書)の中で「本能寺の変」にまつわる数々の黒幕論と、だまされてしまう人々の心理状態を解き明かした。現在の企業社会に生きる我々にもヒントを与えてくれそうだ。

本能寺の変「黒幕論」は1990年代から

 ――1582年(天正10年)に起きた「本能寺の変」は日本史上最大のミステリーといわれます。明智光秀に織田信長へのクーデターを使嗾(しそう)した人物がいるのではないか。新説が次々と現れています。

 「大名にまで引き上げられた光秀が、大恩ある信長に謀反を起こしたのは、誰かがそそのかしたに違いないという『黒幕』論は意外に新しく、1990年代から現れました。江戸時代に主流だったのは信長からさまざまに理不尽な仕打ちを受けたという『怨恨論』でした」

 「主な理由は(1)徳川家康の接待役を解任された、(2)さまざまな暴力を振るわれた、(3)山陰地方の領国を一方的に没収された――などでした。いずれも江戸時代の史料に出てくる話なので信頼性が低く、作り話と考えられています」

 「戦後には光秀も天下取りの野心を抱いていた『野望』説が本格的に展開されました。朝廷に忠誠を捧げていた『勤王家』説や『幕臣』説も登場します。いずれも一種の観念論といえます」

 ――『黒幕論』はちょうど昭和から平成に移ったあとの時期に出てきたのですね。

 「著名な中世史研究者の今谷明氏が朝廷と信長の対立を主張する著作を発表したのが発端でした。新天皇への代替わりの時期にあたり、 歴史学界でも天皇制の議論が盛んでした。絶対君主たらんとする信長にとって、高い権威を備えた天皇の存在がじゃまになってきたというのです」

 「今谷氏自身は本能寺の変に朝廷が関与したとは主張していません。しかし今谷説に触発され、有力な在野史家を中心にさまざまな陰謀論が展開しました」

 ――ちょうど「バブル崩壊」に向かう時期です。一般的にも従来型の考え方や手法を疑う風潮があったかもしれません。

 「信長が正親町天皇に無理やり退位を迫ったため、誠仁親王、近衛前久、吉田兼見らが光秀に信長を討たせたというのが朝廷黒幕説です」

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