日本的デジタル化の落とし穴

ブロックチェーンがもたらす次の破壊と創造 第6回 日本銀行・副島豊、gumi・國光宏尚、アクセンチュア・高橋良之の3氏による鼎談

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國光 アメリカといってもサンフランシスコやシリコンバレーといったテクノロジー企業が多い地域でそうなのであって、トランプ支持層が多い地域ではそれほど気にしていないのかもしれません。

 ブロックチェーンについては、思想的・文化的なところもあると思います。ペイパルの創業者である投資家のピーター・ティール氏は、AIはきわめて中央集権的でコミュニスト的。それに対して仮想通貨は非中央集権的でリバタリアン的という主旨のことを言っています。ティール氏はどちらかというとリバタリアン派というのもあるのですが、分権か中央集権かという問題は、歴史的に見ると過度に行きすぎるといずれも悪影響が出ると感じています。ただ、中央集権で強大になった権力には暴走するリスクが常にあります。ブロックチェーンの価値は、中央集権化した仕組みが暴走したときのオルタナティブ(代替)になるところにもあると思います。

高橋 ところで、サトシ・ナカモトと名のる人物は、なぜビットコインの供給ペースを完全にコントロールして、時間とともに新規発行量が減少していくような仕組みを取り込んだのでしょうか。いまの話と関係しているようにも思えます。

國光 それは通貨の供給量は人間が決めるべきか、機械的なアルゴリズムで決めるべきかを問いただしていると感じます。多くの国では通貨供給量が政治や中央銀行の判断によって左右されていますが、短期的に選挙で勝つために景気対策優先で決まる傾向があります。それであるならば、「アルゴリズムで通貨供給量を決めたほうがよい」というのは一種の皮肉かもしれませんね。つまり、サトシ・ナカモトは思想家でありつつ皮肉家でもあり、リーマンショックのあとに「アルゴリズムに任せたほうが合理的」という発想でビットコインを作ったような気がします。

副島 サトシ・ナカモトは暗号学者といわれているですが、実は経済学も勉強していたかもしれませんね。今の話と似ていることをノーベル経済学賞受賞者のフリードマンが主張しており、「k%ルール」と呼ばれています。毎年一定の比率で通貨供給量を増やすようにするという内容です。中央銀行があえて政策の自由度を放棄して手足を縛る方がインフレの抑制に効果的と考えたのですね。ただし、通貨供給量をルールで縛るのはデメリットもあります。景気がひどく悪いときに通貨供給量を増やして景気刺激的政策を採ることができない。逆に、景気に過熱感が出た際に供給量を減らさないと、やがては過熱が過ぎて、その後に大きく深い景気後退を迎えてしまうという話です。結局、k%ルールはどこの国も採用していません。

高橋 これまでテクノロジーとしてのブロックチェーンが、何かを置き換えると便利になる・効率化されるというのはよく議論されているのですが、思想的・文化的なところはあまり議論されていません。ブロックチェーンの本質はどのようなものなので、本来ここに当てはめるべきだ、ここに当てはめるべきではないという議論は、日銀では行われているのでしょうか?

副島 われわれはパブリックな視点で判断していますので、テクノロジー的にこちらが効率的であるとか、より良いサービスが提供できるかどうかについては議論するのですが、文化的な価値判断や特定のテクノロジーが国民の心情にどれくらいフィットするのかは、中央銀行が決めることの範囲外です。

 一般に技術的に良いものだが、それを選択すると国民の多くの心情に反する場合の判断はすごく難しいと感じています。例えば、現金(キャッシュ)をどうするかという問題があります。現金を扱うために日本の金融機関は巨額の費用をかけています。キャッシュレス化でそれを節約しようとしているのですが、どうしても支払いは現金がよいという方はいらっしゃいます。それは個人の好みや信念なので、国が変えることもできません。そうした文化嗜好的な背景もあり、日本の現金の発行残高は増え続けており、GDP(国内総生産)の2割ぐらいあります。そんなにたくさん現金が出ている国はほかにありません。もちろん、金利が低く、治安が比較的よいのでタンス預金として現金が退蔵されていることも大きな要因ですが。

 現金の残高が減っているのはスエーデンで、銀行やスーパーマーケットが現金を扱わなくなり、クレジットカードやスウィッシュ(Swish)というデビッドカードでほとんどの支払いが行われています。キャッシュレス化がものすごい勢いで進んでしまったため、クレジットカードやデビッドカードを持てない一部の国民は、デジタルデバイドならぬ「キャッシュデバイド」ともいえる状態に陥っています。そのため中央銀行が電子マネーを発行するプロジェクトを進めています。このように国によって状況が違うので、デジタル通貨のバリエーションや普及スピードは各国さまざまではないでしょうか。

高橋 日本は現金好きである一方、ポイントサービスによる経済圏が世界でもまれに見るほど複雑に作られています。それを考えると決済はいずれデジタル化へ進むのではないかと想像しています。お金自体の価値は流通によって変わりませんが、ポイントのような価値が得られるとなったときに、日本人は世界でも反応しやすい有数の国なので、一気にデジタル化が進むのではないかと思います。

副島 ポイントを「トークン」と言い換えると、仮想通貨との距離がぐっと近づいたように聞こえますね。ポイントは円のような法定通貨とは交換できませんが、利用範囲を広げていけばお金に近い使い方ができます。そういう視点ではデジタル通貨は既に日本には実はいっぱいあって、ブロックチェーンを活用しなくても成り立っていると見ることができるのかもしれません。トークンであれ仮想通貨であれ、背景にある技術ではなくて、その価値を担保するトラストは何かという観点からみることが大切なのだと思います。ポイントなんて、台紙にスタンプを押したりシールを貼ったり超アナログな技術で実装されてますよね。技術にばっかり目を奪われてはいけないのでしょう。もちろん、マーケティング的にはデジタル化されたことの意義はとてつもなく大きいのですが。

國光 ポイントはカスタマーサービスと結びつかないと意味がないのですが、カスタマーサービスについては契約の自動化であるスマートコントラクトで効率的に提供できるようになるといった用途でブロックチェーンは活用できそうです。

高橋 ふくおかファイナンシャルグループさんが、ブロックチェーン関連技術を活用した地域ポイント管理システムを構築しています。ポイントは、地域経済とも相性がいいように思います。

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