日本的デジタル化の落とし穴

ブロックチェーンがもたらす次の破壊と創造 第6回 日本銀行・副島豊、gumi・國光宏尚、アクセンチュア・高橋良之の3氏による鼎談

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副島 日本銀行の最終目標は通貨価値を安定させ、持続可能な経済成長を実現することです。そのとき不可欠になるのが、企業や家計に対するより良い金融サービスの提供であり、そうした動きをサポートしていくことも日銀の仕事の一つです。こちらが決済インフラとしての側面であり、ブロックチェーンの実験もこうした動機に基づいています。

 もう一つの側面、つまりブロックチェーンが生み出した最初のプロダクトが仮想通貨であったことに注目すると、お金ってそもそも何だ、なんで中央銀行がお金を発行しているんだっけという深い話に帰着します。お金って何?という疑問は、お金の機能とは何かという切り口から入るといいかもしれません。お金の基本的な機能は、1)ものやサービスを購入する際の支払手段になること、2)将来何かを買うために価値を保存する手段となること、3)あるものがどれぐらいのお金を出したら買える・売れるものなのか、価値を測る手段となることの三つです。

 例えば、支払手段としてのお金ですが、ほとんどの現代国家には固有の法定通貨があって、皆それを当たり前のように決済手段として使っています。ただし、法定通貨であるから信用されるということはなく、カンボジアのように自国通貨よりも米ドルが好んで使われる国もあります。内戦で国連軍が介入した際、大量の米ドルが国内に入ってきて、カンボジア国民は自国の通貨あるいは政府より米ドルのほうが信用できると思い、米ドルを使い始めました。いまだに銀行の預金や貸出の圧倒的多数は米ドルです。そのような国では自国の金融政策があまり効きません。米ドルの金利は米国の金融政策で動くからです。

 ノーベル経済学賞を受賞したハイエクという学者がいます。彼は『貨幣発行自由化論』において「通貨の発行は独占であるべきではない」と主張しましたし、英国のスコットランドでは、イングランド銀行が発行するポンド紙幣とは別に、三つの民間銀行が異なる紙幣を出しています。日本や米国でも、多数の国立・州立銀行券が発行されていた時期がありました。それでも、お金としての機能を果たせていたのです。要は取引の相手方が受け取り対価として合意すればよいわけで、そのためには通貨価値に関する「信用(トラスト)」が必要となります。ハイエクは、トラストを得るための競争が通貨発行主体の行動を律するので、それを阻害する独占はよくないと考えたのです。仮想通貨には、分散型台帳の正当性を保証するテクノロジーはあっても、価値の安定を担保するトラストがありません。これが弱点の一つとなっています。

 結局のところ、多くの仮想通貨は法定通貨との交換レートの変動が大きく、価値の尺度基準にも価値の保蔵手段にもなりえていません。そのような通貨を決済手段として受け入れるお店や企業、個人もわずかな先に止まっています。そこにいまの仮想通貨の限界を感じます。

 仮想通貨をもっと実用的な通貨にしようという動きはあります。三菱UFJフィナンシャル・グループが開発したMFUGコインは仮想通貨のフレームを使っており、価値の安定化ができるように1円が1MUFGコインになるようにしようとしています。ユーザーや使用可能なお店の拡大を図る実証実験も予定されています。プリペイド型の電子マネーは、預けたお金の半分が預託されていること、発行している企業の信用力が高いことで、電子マネーの100円は現金の100円と同じであるという利用者の信用を得ています。

 いずれにせよ、信用(トラスト)をどう確保するかが要(かなめ)になります。クーポンやポイントサービスも、お金との等価性、あるいは利用シーンが限定されるからこれぐらい割り引けばお金と等価になるよねという共通合意があれば、その価値は比較的安定的なものになります。交換手段として限定はされますが、ポイントだってお金的な側面を十分もっているし、それを活用したマーケティングはリテール系FinTechの主戦場の一つになっています。ポイントで金融投資とか、ポイント交換によって利用対象を広げることで決済機能を拡充するとか様々な戦略が試されています。

ブロックチェーンでしか実現できないことに価値が生まれる

高橋 次に國光さんにうかがいます。gumiはスマートフォンゲームを開発する会社である一方、グループの投資ファンドを通じて、仮想通貨およびブロックチェーン技術関連サービスに投資しています。どのような点に着目されたのでしょうか?

國光 今年の5月30日、gumi Cryptosという投資ファンドの創設を明らかにしましたが、そこを通じて計7社に投資しています。僕自身はブロックチェーンでなければ実現できない製品・サービスが一番重要だと考えています。スマートフォンのサービスで成功した会社は、スマートフォンファーストでスマートフォンならではのユーザー体験やコンテンツを提供しました。僕らのモバイルゲーム会社も家庭用ゲームを置き換えるのではなく、スマートフォンならではのサービスを提供したところが成功していると思います。ブロックチェーンでも同様にブロックチェーンでしか実現できないことにこそ価値が生まれると思いますので、それは何なのかを、gumiは複数社への投資とR&D(研究開発)を通じて見つけていこうとしています。

 「ブロックチェーンならでは」を実現する要素や機能として、現時点での僕たちの仮説は二つあります。

 一つが「トラストレス(信用保証なし)」で、「自律的」に動く、「ディセントラライズドな(分権化された)」ネットワークであることを生かすことです。ブロックチェーンを利用した仮想通貨が特に斬新だと思うのは、誰が信用保証をしているわけでもないのに通貨になっている点でしょう。ビットコインは、マイニング(仮想採掘)を行うマイナーが信用保証をしていると言えないこともありませんが、マイナーは採掘の報償としてのビットコインが欲しいという利己的な目的で、誰に指示されることなく自律的に動いているのです。

 もう一つは、僕らがコンテンツ系の会社として興味を持っているところですが、デジタルなデータに過ぎない仮想通貨がユニークさ(唯一性)を獲得し、それに伴って資産性を持ったというところです。コンテンツビジネスではデジタルデータが商売のタネです。例えば、音楽ビジネスでは曲のデジタルデータをCDに、映像ビジネスでは映画などのデジタルデータをDVDにそれぞれ記録して販売していました。それがインターネット時代になってデジタルデータの複製が簡単にできるようになったため、データ自体の価値が下がったことから、データの売買ではなく、データを取り扱うサービス(プラットフォーム)のところで儲けるしかなくなりました。

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