東大卒棋士のAI勝負脳

藤井聡太がタイトルに挑戦する確率 将棋棋士6段・片上大輔

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 特に長年温めていた構想や、対局中にふと思いついて自分なりに考察を深めた一手には思い入れが深いもので、どうしても甘い評価をしてしまいがちだ。結果としてその対局に勝つと、良い手を指した結果であると判断してしまう。

 例外は羽生善治竜王くらいだろう。このサイクルを30年以上、独力で回し続けてきた。一時の勝ち負けや自身の調子に左右されることなく、常に客観的に局面を見続けていたからこその永世七冠達成であったと思う。最近のタイトル戦でも序盤の早い段階で7筋に飛車を回すなど(初心者かと思ってしまうような手だ)いまも未知の手を実験し続けている。

将棋界におけるPDCAサイクル

 現在はPDCAサイクルを回すために、AIという優れた研究パートナーが存在している。AIの評価は100%正しいわけではないが、極めて有能かつブレが少ない存在であることも間違いない。AIの出す見解は極めて客観的で、しかも融通の利かないものである。またある一手や局面への思い入れが全くないところが長所でもある。

 ただAIの示す指し手を正しいと信じてひたすら覚え込めば、まったく同じ局面では同じ手が指せるかもしれないが、それだけでは未知の局面に対応できない。現在の藤井が公式戦で中盤戦に持ち時間を大量に投入しているのは、そうすることが一局の勝ちにつながるばかりでなく、自分の能力を高めると信じているからだろう。対局中に深く読み続け、その内容を後日AIの読みと見比べることで、さらに強くなろうとしているわけだ。

 もちろん未知への対応を重視すればそのトレードオフで既存定跡への対応が甘くなることは避けられない。増田も斎藤も、そこを突いてリードを守り切っての勝利だった。

 「タイトル挑戦の確率20%」は、もっと大きい数字を言う棋士もいるかもしれない。ただしタイトル戦のように同じ相手と続けて対戦することが増えるならば、これまでのような「2手目を変えない」スタイルなどは確実に狙いうちにされるだろう。そのとき藤井がどう戦略を変えるのか、同じ棋士として一番関心を持っているポイントだ。

 片上 大輔(かたがみ・だいすけ)
 将棋プロ棋士6段。
 1981年広島県出身、36歳。森信雄7段門下。東京大学法学部在籍中の2004年に4段昇段、プロ棋士としてデビュー。09年6段。13年から日本将棋連盟の理事・常務理事(17年まで)を務め、プロ棋士とコンピュータソフトとの対局「電王戦」などを担当した。また将棋界で34年ぶりの新タイトル戦「叡王戦」の創設にも携わった。14年から首都大学東京で非常勤講師を務めている。

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