東大卒棋士のAI勝負脳

藤井聡太がタイトルに挑戦する確率 将棋棋士6段・片上大輔

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 藤井はタイトル獲得経験のあるトップクラスの棋士だけでなく、生涯のライバルになりそうな若手とも競わなければならない。対戦相手のクラスが上がってきたため、今後はさすがに29連勝のような記録は生まれないだろう。ただし内容面での完成度は当時よりさらに増している。連勝中に見せたような大きな逆転勝ちはなく、最近の勝ち星はほとんどが完勝に近い内容ばかりだからだ。逆に敗れた将棋に拙戦の類はない。そこにタイトル挑戦の可能性を感じている。

「中盤重視」にみる藤井の自己変革

 最近の藤井の将棋を細かく見ていくと、将棋を序盤・中盤・終盤に分けたとき「中盤」に重心を置いている様子がうかがえる。特に持ち時間が長い(5時間以上)対局では、自分の持ち時間の大半を中盤戦に投入している。これは戦型の選択と駒組みを進める序盤や、明確に正解が存在する終盤よりも、選択肢が広い上に指し手ごとの比較が難しい「中盤」における大局観を重視しているからだろう。

 その結果として終盤で残り時間が少なくなることが増えてきた。最近の対局では終盤に差し掛かった時点で残り時間が30分を切っていることも多い。昨年までの藤井は、もっと持ち時間を残して戦うことが多かった。 実はプロ棋士とAIの差がもっとも如実に現れるのがこの中盤戦だといわれている。AIは人間の理解の及ばないところでこそ真価を発揮するからだ。

 ただし真価を発揮するといっても、あくまで評価値(+100とか-300といった風に)を示してくれるというだけで、なぜそのような評価になるのかの理由までは教えてくれない。 次に指すべき手の選択も瞬時に回答してくれる。しかしなぜそれが良い手なのかの説明はない。その理由を知りたければ、人間が独自に考えるしかない。だからこそ、藤井はそこに答えを探そうとしているように見える。

 ほんの数年前まで将棋の中盤は「答えのない分野」であり、学習を通じて能力を鍛えることが難しいとされてきた。いわばPDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルのC(check/評価)が欠けている状態のようなものだ。構想を立てて実戦の場で試すことはできても、それが正しい戦略であったかどうかを確かめるノウハウがなかった。もちろん評価できなければ改善も存在しないことになる。

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