学校で教えない経済学

政府は無駄を減らしたがるか?~「証拠に基づく政策」の限界~

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 データ分析を活用した「証拠に基づく政策立案」が注目されています。Evidence Based Policy Making(EBPM)の訳で、政策の効果を定量的に把握して合理的な意思決定を行おうとする試みです。欧米では近年この考えが浸透し、日本でも導入する動きがあります。

 もし証拠に基づく政策立案で行政の効率が高まり、税金の無駄遣いを減らすことに役立つのであれば、結構なことです。しかし実際の効果には懐疑的にならざるをえません。この手法には、大きく2つの限界があるからです。

 統計学を駆使した経済政策の分析には、たしかに興味深いものがあります。2008年、リーマン・ショックに襲われた米国では景気刺激策として、低燃費車を高燃費車に買い替えれば約40万円の補助金を与える「ぽんこつ車買い替え支援プログラム」を行いました。この政策について、ある経済学者は車販売数の推移を分析し「一時的に駆け込み需要を生んだだけで、結果的には需要の総計を増加させはしなかった」と結論づけたそうです。

 経済学者の伊藤公一朗氏は著書『データ分析の力 因果関係に迫る思考法』で、日本のエコポイント政策についても同様のデータを収集し分析を行うことは可能なはずだと指摘します。その結果が行政の効率アップにつながれば、喜ばしいことです。

経済的な事象はデータから正しい結論を導けるとは限らない

 しかし、そう簡単にはいきそうにありません。1つには、経済的な事象は、自然界の事象と異なり、データから正しい結論を導けるとは限らないからです。

 物を対象とする自然科学は、閉じられた実験室でさまざまに条件を変えながら実験を繰り返し、事象を観察することができます。しかし経済学の対象は自分の意思で行動する生身の人間であり、倫理的・金銭的にも自然科学のような実験はほぼ不可能です。

 経済学でも実験の手法が発達してきたとはいわれます。教育経済学を専門とする中室牧子氏は著書『「学力」の経済学』で、人をランダムに2つのグループに分け、一方には効果を確かめたい介入を行い、もう一方には介入をせず、比較対照する「ランダム化比較試験」を紹介します。

 けれどもこの手法にも弱点があります。人が実験に反応して行動してしまうかもしれないからです。中室氏によれば、ケニアで学校給食の提供が子供の出席や学力に与える因果関係を明らかにするため、一方のグループでは給食を無償にし、他方ではしなかったところ、給食を目当てに子供を無償の学校に転入させようとする親が出てきました。

 正しく比較するには、2つのグループの間に親の所得などの諸条件で偏りがあってはいけません。しかし、もし転入によって無償グループに親の所得の少ない子供が過度に増えれば、出席や学力の違いが給食の無償提供によるものか、親の所得によるものかがわからなくなってしまいます。

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