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今からでも分かる「朝鮮戦争」の5冊

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■休戦協定に賛成しなかった韓国大統領

 朝鮮戦争の起源や帰結を現代史の中で位置づけたのが「国際政治のなかの韓国現代史」(木宮正史著、山川出版社、1500円)。著者は東大大学院教授。朝鮮戦争が米ソの代理戦争という一面だけでなく、植民地時代から長く続いていた左右対立の結果の内戦でもあるという分析を紹介している。祖国統一を主張していたのは金日成主席ばかりではなく、韓国の李承晩大統領にとっても譲れない一線だった。53年の休戦協定に韓国は署名していない。李政権は強力な野党を抱えていたが、戒厳令下での憲法改正などで独裁的権力を掌握していく。

 朝鮮戦争は半島全体の1割を超える死者が出たとされる。さらに生き延びた民衆にとっても、目まぐるしく変わる戦況の中で南北朝鮮それぞれの「施政」を経験し、容易に敵方と見なされる可能性も生じてきた。権力交代のリスクを最小化するため「政治的沈黙」を強いられることになったという。物理的な損害だけではなく精神的にも大きな傷を負ったわけだ。

 同書では北朝鮮の経緯も詳述している。北朝鮮の金日成主席も「満州派」「ソ連系」と呼ばれた、自らの権威に挑戦しうる党内勢力を抱えていたが、徐々に駆逐していった。朝鮮戦争後の南北朝鮮は、それぞれどちらの政治が優れているかの「体制競争」の時代に入っていった。

 今回の米朝首脳会談で陰の主役のひとりは、事前に2度も金委員長の来訪を受けた中国の習近平主席だろう。中国が北朝鮮のバックに付く構図は、朝鮮戦争でともに戦った歴史をみれば当然にも映るが、内情はそう簡単ではなかった。「毛沢東の朝鮮戦争」(朱建栄著、岩波現代文庫、1600円)は建国間もない中華人民共和国が、ためらいながらも参戦に踏み切るまでの経緯を記している。著者は上海出身の東洋学園大教授で、中国現代史の泰斗のひとり。

 当初、朝鮮戦争に介入すべきだと主張したのは毛沢東主席1人だったという。毛沢東は、国連決議による韓国支援、台湾防衛への米第7艦隊派遣などから、朝鮮、台湾、インドシナの3ルートから中国に侵攻する米軍の戦略をかぎ取ったという。

 当時のトルーマン大統領に対中戦争の意図がなかったのは明らかだ。しかし中国外交は歴史性や一貫性、戦略性を相手の行動の中に読み取ろうとする傾向があると朱教授は指摘する。特に朝鮮半島は近代日本の大陸進出の出発点となった地域だ。自国の安全保障のために、中国は今後も朝鮮半島に関与し続けようとするだろう。

 番外編として、よりディープな中朝関係史を知りたい方には朱教授が翻訳した「最後の『天朝』 毛沢東・金日成時代の中国と北朝鮮」(沈志華著、岩波書店、上下各5800円)をどうぞ。北朝鮮と中国は決して常に一体だったのではなく、朝鮮戦争当時から主導権争いを繰り返していた。金日成がソウルを占領してから休戦協定を結ぼうとしたのに対し、中国人民義勇軍の彭徳懐司令官は真っ向から反対した。その後は中ソを両にらみにして、金日成は政治的な利益を得ようと巧みな外交を展開した。しかし70年代半ば、朝鮮半島の武力統一を目指す金日成の野心を断念させたのは、毛沢東だったという。

(松本治人)

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