東大卒棋士のAI勝負脳

藤井聡太の活躍を支える「マッチング」 将棋棋士6段・片上大輔

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 そう考えると、この土俵は将棋ソフトを使うことを、日常的に慣れ親しんできた若い世代ほど向いていると言えるだろう。 藤井にとっての角換わりは、マッチングという観点にぴたりと当てはまる。

■藤井に多い持ち駒の角を打つ好手

 藤井には持ち駒の角を打つ好手が多い。一番印象に残っているのは棋戦初優勝と6段昇段を決めた朝日杯決勝戦での▲6七角打。対戦相手の広瀬章人8段も解説者の谷川浩司9段も気がつかなかったと絶賛していた。

 7段昇段を決めた竜王戦での△4五角打も、指されるまでは私も気が付かなかったが、指された瞬間なるほど良い手だと思った。従来この形では1段自陣に控えた5四の地点に打つのが「常識」とされており、盤面の中空にいきなり角を据えることはプロの将棋では極めて稀だ。いずれも初めて遭遇した局面だったのが信じられないような好打であった。

 逆に藤井に「将棋の純文学」とまでいわれた矢倉戦法の重厚なイメージはない。矢倉は盤上の駒を一歩ずつ前線に繰り出していく戦法で、妙手1発で相手を倒すというより双方とも、あらゆる駒を使っての総力戦になりやすい。そのあたりが「純文学」のゆえんなのだが、最近はソフトの評価が芳しくないため流行からは外れている。

 自分の好みと、得意と、流行の3拍子がそろって、藤井はデビュー当時から自然な形でマッチングに成功していると言える。これから業界のトップを目指す者にとって藤井の戦い方はある種のヒントになるかもしれない。逆にそうでない者(私もそうだ)にはどこかを見直し、工夫して、さらに変化をつけることによって時代に取り残されない努力が必要になってくる。ビジネスの社会でも課題への向き合い方は同じではないだろうか。

 片上 大輔(かたがみ・だいすけ)
 将棋プロ棋士6段。
 1981年広島県出身、36歳。森信雄7段門下。東京大学法学部在籍中の2004年に4段昇段、プロ棋士としてデビュー。09年6段。13年から日本将棋連盟の理事・常務理事(17年まで)を務め、プロ棋士とコンピュータソフトとの対局「電王戦」などを担当した。また将棋界で34年ぶりの新タイトル戦「叡王戦」の創設にも携わった。14年から首都大学東京で非常勤講師を務めている。

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