日本企業の競争力を奪った統治改革の失敗 経営はだれのものか

内部統制がもたらした五つの深刻な問題 加護野 忠男

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 日本企業では上司から人事権が取り上げられている。そのため、上司の誤りを指摘することができる。このような下からの諫言こそ、武士道のエッセンスだという見方すらある。怪しげなことは上からよりも下からよく見えるのであるのである。このような濃密な内部統制が行われているところでは、米国的な内部統制システムは不要なのである。それよりも、人事制度を充実させる方がコストも安くより効果的である。

(3)企業の内部に官僚主義を蔓延させる

 官僚制とは、すべての意思決定をルールに従って行い、このルールに合わない事象に関しては上位の判断を仰ぎ、すべての業務執行やコミュニケーションを文書に記録する、といった組織運営の方式をさす。「官僚制は効率が悪い」とされることが多いが、一概にそうだとは言い切れない。経営学のこれまでの研究によれば、官僚制がうまく機能する環境もある。官僚制がうまく機能するのは、環境の変化がほとんどなく、顧客を待たせても問題が起こらない組織体の場合である。残念ながら、そのような恵まれた環境にある企業はほとんどない。

(4)日本企業の独自の強みが失われてしまう

 日本の組織の強さは、現場がその知識に基づいて、ルールや手順を柔軟に変えていくことにある。ルールををトップダウンで決めてしまうと、企業としての柔軟性が失われてしまう。まさに角を矯めて牛を殺すという結果になってしまう。

(5)内部統制システムが組織の風土を劣化させてしまう

 先に述べたように、こうしたシステムは、性悪説(X理論)に従った経営を強いて、会社の風土を劣化させるのである。

 このような問題があるために、内部統制システムを導入すると、よい経営が行えなくなる。それにもかかわらず、硬直的なシステムの導入が義務付けられるのは、投資家の信頼回復、投資家保護という大義名分のためである。

 投資家にとって大切なのは、企業でよい経営が行われて、企業価値が上昇することである。にもかかわらず、投資家保護がこの本来の目的から外れてしまうのは、市場規制当局の論理が優先されてしまうからである。

 規制当局には、投資家にとって望ましくない不祥事が起こらないようにしようとする姿勢がある。不祥事が起こったときに規制当局者の責任が問われるからである。規制当局には、企業価値を高めるという任務はないのである。そのために、不祥事が起こるたびに企業に課せられるルールが厳しくなっていく。

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