グローバル競争時代のものづくり ~日本企業復権への10カ条

"ゆでガエル"と化した日本企業 東京大学大学院経済学研究科  ものづくり経営研究センター特任研究員 吉川良三 氏

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✕ 日本企業が苦境に陥った主因は円高
         
◯ 環境の変化に適応できなかった

 2012年12月に発足した安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」で、ここ数カ月、世間は突然の円安や株高と、その後の相場乱高下に翻弄されている。この状況は、筆者がサムスン電子の常務を務めていた1997年の通貨危機前後の韓国を想起させる。

 当時の韓国は、財閥主導の投資が過熱し、それを支えた銀行融資の不良債権化といったひずみが拡大。外国資金が引き揚げに転じると、危機前に1ドル=800ウォン台だった為替レートは、1ドル=2000ウォン近辺へとつるべ落としのごとく暴落。98年の実質国内総生産(GDP)成長率はマイナス5.7%に落ち込み、国際通貨基金(IMF)の支援を受けるなど、「朝鮮戦争以来最大の国難」といわれる極度の経済不振に見舞われた。

なぜサムスンにこれほど水をあけられてしまったのか

 「技術立国」「ものづくり大国」などと言われてきた日本だが、その製品が世界市場を席捲したのは、もはや過去の話だ。半導体、薄型テレビ、携帯電話といったハイテク関連製品でさえ、世界市場における日本企業のシェアは低迷の一途をたどっている。

 サムスン電子の営業利益は、2012年の1年間で29兆500億ウォン(約2兆4500億円)。電機大手8社(日立製作所、パナソニック、ソニー、東芝、富士通、三菱電機、NEC、シャープ)の営業利益合計額(1兆2231億円)を倍も上回るほどの差がついてしまっている。2期連続で巨額の最終赤字を計上し、大規模な人員削減を行うなど経営再建中のシャープやパナソニックが、今日の日の丸家電の苦境を象徴している。

 こうした危機の根本にある問題は何も変わっていないのに、アベノミクスに乗じてヘッジファンドが演出した円安期待に舞い上がり、目先の相場変動に一喜一憂している様は、筆者の目には非常に危うく映る。

 日本勢の劣勢については、これまでもたびたび「円高ウォン安」がやり玉に挙げられてきた。しかし、日本企業が競争力を失った根本的な原因は円高にあるわけではない。サムスンといえども、主要な電子部品や素材は、いまでもその多くを日本の中間財メーカーから調達している。円高になるとコスト高になって困るのは、むしろサムスンのほうだ。

 よく「諸外国に比べ高すぎる」といわれる法人税についても同様で、法人税の高さが問題になるのは日本国内で生産する場合だけだ。海外で生産活動を行うときは、その国で同じ条件下で競争しているのであって、日本の法人税は日本企業が進出先で勝てない理由にはならない。そもそも為替相場や税制は企業には決められないものなのだから、どう動いても対応できるような体勢を備えておくのが、経営の役割というものだろう。

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