技術を武器にする経営 日本企業に必要なMOTとは何か

コンセプト創造からすべてが始まる 伊丹 敬之、宮永 博史

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 これに対し、家庭向けの宅配事業は、商取引とはまったく関係のない個人の生活の中で偶発的に起こる輸送需要である。反復的、定型的、大量的という商業貨物市場の特色とは対極をなす市場だ。つまり、いつ、どこの家庭から出荷されるかわからないし(偶発的)、どこに行くかも決まっておらず(非定型的)、輸送ロットも小口(少量的)で、その需要はつかみどころがない。とても経営として成り立つとは思えない。

 しかし、当時の社長であった小倉昌男氏には、勝算があった。たとえば、電話のネットワークにそのヒントがあることに気づく。各家庭からの電話も宅急便と同じように、偶発的だ。いつ、どこからどこへ、どのくらいの頻度で利用されるか予想もつかない。それでも経営的に成り立つのは、日本全体を集合的に見ることによって、確率論が適用でき、トラフィック理論というしっかりとした技術に裏打ちされたネットワークを構築しているからだ。宅急便も同じように集合的に考えて物流ネットワークを構築すればよい、と小倉昌男氏は考えた。ほかにも、宅急便のコンセプトを実現するためのさまざまな技術と仕組みを構築している。いいコンセプトには、必ず「なるほど」と納得する技術と仕組みの裏打ちがある。

 この二つの条件を満足しても、価格が許容範囲を超えてしまっては普及しない。三つめの条件は、許容範囲内に価格を設定することだ。宅急便も、500円と家庭の主婦にとって許容範囲の価格設定を行った。物量が出なければ価格を高くせざるをえない。しかし、価格が高いと物量が出ない。鶏と卵の関係だ。最初は赤字でも、物量が増えてくれば黒字になるような仕組みを描けていたからこそ、「サービスが先、利益は後」という方針を打ち出し、実行することができたのである。

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