技術を武器にする経営 日本企業に必要なMOTとは何か

技術者が引きこもりやすい三つのタコツボ 伊丹 敬之、宮永 博史

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 この点、スティーブ・ジョブズは情報漏洩を防ぐことに関して徹底していた。社外はもちろんのこと、社内においても、知る必要のない社員に自分の仕事について話すことを禁じていたほどだ。社員食堂で仕事の話をしてはならなかった。その徹底ぶりを示すエピソードがある。ある製品のユーザーインターフェース部分を開発した技術者が、スティーブ・ジョブズがメディアを集めて行う新製品発表会の模様を社内のモニターで熱心に見入っていたという。自分が開発にかかわっていた製品の姿を見たのはそのときが初めてだったからだ。

 学会で情報が漏洩する危険性が避けられないのであれば、いっそのこと技術者に対して一切発表を禁じることも一つの方法である。しかし、技術者のモチベーションを考えると、なかなかそうもいかない。

 二つめのマイナス面は、顧客不在の技術開発競争を助長しかねないことだ。学会は、お互いに切磋琢磨する場でもある。競争はないよりもあったほうが技術は進歩する。競争促進の場としての学会は技術の進歩にとってきわめて有効だ。問題は技術開発の方向性である。

 学会の場で技術の良し悪しを評価するのは、同じ分野の技術者たちである。確かに技術の価値を確に評価するには、その技術分野に深く精通していなければ無理であろう。

 しかし、技術の価値評価を同じ技術者同士で行うことが、技術者たちをより一層タコツボの中に押し込むことになる。顧客にとって価値があるかどうかよりも、学会での評価を気にするようになる。学会で評価されることで自分の技術が優れていると勘違いする。技術で勝って事業で負けるというが、技術の勝ち負けの判断を単に仲間うちで行っているだけであって、本当に技術で勝っているかどうかもあやしいのである。

 技術の価値を評価するのは、技術者ではなく、あくまでも顧客であることを忘れてはならない。

 三つめのマイナス面は、そうした顧客不在の技術開発が、堂々と事業化計画に盛り込まれてしまうことだ。技術者による技術者のための場である学会が、場合によってはその権威によって、事業計画をねじ曲げてしまうのである。

 このように、学会にはプラス面ばかりでなく、マイナス面もあることを技術者もマネジメントも十分認識しなければならない。

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