技術を武器にする経営 日本企業に必要なMOTとは何か

技術者は構想・利益なき繁忙に陥っていないか 意味のない忙しさに振り回される三つの要因 伊丹 敬之、宮永 博史

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 ところが、手紙に書かれていた「秘密」は、彼の予測とはまったく異なっていたのである。日本の技術者たちは、広い体育館いっぱいに半導体のレイアウト図を拡大印刷して広げ、赤鉛筆と消しゴムを手に、床に敷き詰められたレイアウト図に這いつくばるようにしてレイアウトに間違いがないかどうか調べている、とそこには書かれていた。学生が笑い出したのも無理はない。よもやそんなローテクが使われているとは思いもよらなかったからだ。

 日本の技術者にも言い分はあろう。そもそも、レイアウト設計の検証ツールをわざわざ開発するような「悠長なこと」はいっていられない。半導体の開発は一刻を争っている。国内だけでも大手数社の技術者たちが日夜開発競争に明け暮れている。その競争に負けるわけにはいかない。「手っ取り早い」手段としては、マイクロメートル(当時はまだナノメートルの領域に入り込んでいなかった)といった超微細な世界を人間の目でも検証できるサイズにまで拡大して印刷し、体育館いっぱいにレイアウト図を敷き詰めて、人海戦術で検証作業を行うというものであろう。

 確かにこの方法であれば、目の前の問題はとりあえず解決できる。半導体産業の初期は、まだ集積規模も少なく、検証ツールをわざわざ開発するよりも人手のほうが圧倒的に速くて正確であった。しかし、半導体の微細化技術は、集積度を3年ごとに4倍に増やす速度で進歩していく。ということは、体育館に広げるプリントアウトも3年ごとに4倍の面積に拡大することを意味する。この方法ではいずれ破綻することは明らかだ。もちろん、どこかで気づいて、ソフトウエアの検証ツールの開発に手をつけるであろう。あるいは、すでに開発に着手していたかもしれない。

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