技術を武器にする経営 日本企業に必要なMOTとは何か

技術者は構想・利益なき繁忙に陥っていないか 意味のない忙しさに振り回される三つの要因 伊丹 敬之、宮永 博史

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上位概念を構想できない

 目の前の問題だけをとりあえず解決する習性は、上位概念を構想させにくくする。これが、構想なき繁忙を生む三つめの要因だ。

 国内で広く普及したスイカやパスモといった鉄道の電子乗車券は、鉄道利用者の利便性を格段に向上させた。異なる鉄道会社で相互利用できることはもちろん、料金をいちいち確認して切符を買う煩わしさからも解放され、定期券外の料金精算も改札機で自動精算される。電子マネーとして買い物にも使える。スマホにもスイカの機能が搭載され、自動チャージされるなど利便性が増している。もはやスイカなしには考えられない。まさにイノベーションである。

 スイカにもパスモにもソニーの非接触ICカードが使われている。改札機とスイカとの間は、わずか0.1秒で情報がやり取りされる。改札機を通過する際に受け取った電波を電池代わりにしてカード内のICを起動させているため、電池は必要でなく、利用者は充電の煩わしさからも解放されている。その技術は実に見事といってよい。

 しかし、鉄道会社間の相互利用、電池を内蔵しない、電子マネーとして活用する、などの上位コンセプトは、残念ながら日本で構想されたわけではない。香港のオクトパスカードから輸入されたものだ。

 上位コンセプトが構想されたのが香港であって日本でなかったのは、ある意味やむをえない事情もあった。香港と違い首都圏の鉄道事情ははるかに大規模で複雑だ。しかも、大量の人が利用する。日本の鉄道事情を考えれば、いかにハードウエアの処理速度を上げて、改札機を通るときの誤り率を下げるかという目の前の問題に集中せざるをえない。これはこれで重要な課題である。

 しかし、その問題に注力すればするほど、電子マネーなどの上位概念を構想する余裕をなくしてしまう。上位概念を構想する場としては、香港のようにハードウエア的な性能要求が緩めのところからスタートするほうが得策なのである。

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