技術を武器にする経営 日本企業に必要なMOTとは何か

思い入れと思い込みを混同しやすい技術者たち 伊丹 敬之、宮永 博史

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技術がよければ売れるという思い込み

 傍目八目という言葉がある。他人の囲碁を傍で見ていると、実際に対局しているときよりも、いい手が読めるという意味だ。囲碁に限らず、いろいろなシーンで見られる現象である。イノベーションを興そうと一生懸命に働く技術者やマネージャーたちを傍から見ているほうが、その努力の方向性の間違いに気づく。技術者はどこで間違いやすいのか。死の谷を越えようとして、逆に死の谷に落ちる典型を考えておこうというのが、連載の後半(書籍の第2部)の目的である。

 技術を開発し製品化するまでには、質的にも量的にも多くのハードルを克服しなければならない。もちろん、新たに技術開発をするのであるから、当然、ある程度の困難はつきものだ。しかし、想定以上の困難に遭遇するのが技術開発の常である。しかも、必ず克服できるという保証があるわけでもなく、もしかしたら原理的に不可能かもしれないという不安とも絶えず戦い続けなければならない。マネージャーであれば、技術課題に加えて、予算や人員不足に頭を悩ますことであろう。部下に対する目配りをしながら、技術開発の後の生産体制やマーケティング部門との擦り合わせなど、上下左右への気配りも欠かせない。

 先の見えない困難は、八合目あたりの頂上近くで特にピークに達する。しかも八合目だということもわからない。そこを乗り切るためには、開発しようとする技術や製品に対して誰よりも強い思い入れがなくてはならない。自分自身のモチベーションを維持するためにも、周囲を巻き込むためにも、心の底からの強い思いが必要だ。

 その一方で、技術者は冷静さを失ってはならない。冷静さを兼ね備えない思いは、単なる思い込みにすぎなくなり、ときには技術開発の方向性さえ見失ってしまう。周囲が見えなくなり、独りよがりの思い込みで技術や製品を開発しても、自己満足商品を生み出すだけである。自己満足商品でも、自分たちが商品の使い手として購入すればまだよい。なかには、自分たちですら購入しないような「作るだけの自己満足」で終わってしまった自己満足商品があふれている企業も少なくない。

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