孫子に経営を読む

兵とは詭道なり――サプライズこそ戦略 伊丹 敬之氏

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 兵とは詭道なり、という言葉と相通じるものがある。戦略は正でなければならず、政治も経営も道が大本になければならない。しかし、詭道もまた可であるし、必要なのである。

 なぜ、正である基本、道という大本がなければ、兵の世界であっても、長期的には成立しないのか。

 それは、当面の敵が、未来永劫の敵ではないからである。状況が変われば、敵は味方になり、味方は敵になりうる。それも、どう変わるかは今からは読めない、分からない。だから、いつかは共同歩調をとるかも知れない人々を相手に、きちんと自分たちの信用基盤をもっておく必要がある。そのためには、大本は正や道でなければならないのである。

 そうでなければ、最後の最後は、信用されない。人をだましかねない間諜を使うのに聖智や仁義が必要である理由が、最後の最後に誰の言葉を信用すればいいのかの基盤がなければならないから、というのと同じことなのである。

 ただ、顧客を戦略の究極の対象と考えると、ビジネスの世界では「兵とは詭道なり」という言葉をより慎重に考える必要があるだろう。

 たびたび述べているが、戦さはあくまで敵を倒すことを目的とするものである。しかし、企業の競争は競合相手を打ち負かすことが目的ではない。顧客を獲得すること、顧客の満足を競合相手よりもより多く勝ち取ることを目的としている。競合相手を負かしても、顧客にそっぽを向かれるのなら、そんな戦略に意味はない。

 だから、顧客を欺き、裏をかくのは、企業戦略の基本にもとる。顧客を相手に偽りの道は長期的には成立しない。しかし、競合相手の裏をかく、競合相手の動きを巧みに利用する、という意味での詭道は、戦略としてありうる。競合相手の裏をかいて、より顧客の満足を勝ち取る、という意味での「詭道」である。

 あるいは、多少は「欺く」という言葉の語感に近いところでいえば、「顧客を驚かす」という意味でのある種の詭道ならば、戦略としてありうるであろう。

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