孫子に経営を読む

兵とは詭道なり――サプライズこそ戦略 伊丹 敬之氏

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「兵とは詭道なり」
「兵者詭道也」 計篇(第一)金谷治訳注『新訂 孫子』岩波書店、31頁

 計篇にある、有名な言葉である。この連載の第2回で私があげた「一に道、二に天、三に地、四に将、五に法」という鍵要因を示す言葉が同じ計篇の冒頭部分にあるが、これはその少し後に出てくる。

 「詭」という漢字の意味は、白川静博士の『字通』によれば、「いつわる」「あざむく」ということで、「敵を欺き、あるいは敵の意図の裏をかくことこそ、兵のあり方、戦略だ」というのが、この言葉の意味である。

 孫子はこれにすぐ続けて、「能なるもこれに不能を示し」「遠くともこれに近きを示し」「卑にしてこれを驕らせ」「其の無備を攻め、其の不意に出(い)ず」など、13もの詭道の例をあげている。

 それぞれ、強くとも敵には弱く見せる、遠方にあっても近くにいるように見せる、低姿勢に出て敵を驕らせる、相手の無防備を攻めたり予想していないところに出る、ということで、すべて相手を欺き、相手の裏をかくような行動である。

 この章では、「正と奇」「虚と実」「致すと致される」、と孫子の戦略の真髄と私が考えるものをあげてきたが、それらはすべて「詭道」を語っているものとも考えられる。

 正の戦略を基本とするが、そこに奇を加えてはじめて勝てる。敵の虚を撃って実を避ける。敵に致されるのではなく、敵の動きを誘導するような戦略をとる。

 「奇」「虚」「人を致す」、すべて敵の動きを読んだ上で、その裏をかくような、あるいはそれを利用するような戦略の重要性を語った言葉だった。その意味で、「詭道」の例なのである。以前の回で取り上げた孫子の言葉の中では、「勝ちて而る後に戦いを求め」という言葉だけが、詭道からはやや遠いといえそうだ。

 ただ、「兵とは詭道なり」という言葉は、古来から多くの論議を呼んできたようだ。「人をだます」とも読めることを将の戦略の基本に置くことに対する違和感や警戒感があるからだろう。孫子の戦略は人間の仁義に反する、といった人もいたそうだ。

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