孫子に経営を読む

人に致して人に致されず――主導権を握ることが、戦略の鍵 伊丹 敬之氏

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 こうして、競争相手に対しては競争の主導権を握り、顧客に対しては大いに主張して顧客を導くような企業が、結局は大きな成功を収める。その両方の意味での「人に致して人に致されず」が、戦略の真髄の一つなのである。

 そのいい例が、本田宗一郎である。彼も、ジョブズと同じように、市場調査などで顧客に新製品についてのアンケートをしたりするのをいやがっていた。そして、本田宗一郎が戦後のオートバイ市場での競争に打ち勝ったのは、じつにスピーディな新製品開発の連続ゆえであった。

 そのスピードは、ホンダが競争相手の倍以上の数の新製品を世に問う年が何年も続いたほどであった。つねに競争相手の先をいく新製品開発で、主導権を握ったのである。

 しかも、顧客への強い主張も続けていた。その一つの頂点が、1958年発売のスーパーカブである。「こんな小さなオートバイならみんな欲しがるに違いない」という共同経営者の藤澤武夫のコンセプトを本田宗一郎の技術が見事に形にして、誰もがその性能の高さと低価格に驚いた。発売したその年に9万台を売る大ヒット。当時の日本のオートバイ市場全体の二割近くの巨大な数字である。顧客の潜在ニーズを大規模に掘り起こしたのである。そして、発売後半世紀の2008年には世界生産累計は6000万台を記録し、その後も売れ続けている。

 戦略は、主導権を握るものでなければならない。「人に致して人に致されず」という短い言葉の含蓄は、深そうだ。

伊丹敬之 著 『孫子に経営を読む』(日本経済新聞出版社、2014年)第四章「戦略の真髄」から
伊丹 敬之(いたみ ひろゆき)
東京理科大学大学院イノベーション研究科教授。1969年一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。72 年カーネギーメロン大学経営大学院博士課程修了(PhD)。その後一橋大学商学部で教鞭をとり、85年教授。この間スタンフォード大学客員准教授等を務める。

キーワード:経営、管理職、企画、人事、人材、経営層

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