孫子に経営を読む

人に致して人に致されず――主導権を握ることが、戦略の鍵 伊丹 敬之氏

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 その戦略に押され、追い込まれていったのが、日産自動車ではないか。日産はハイブリッド車を出してこなかった。そして、エコカー市場に出遅れた日産は、2010年に電気自動車に賭ける戦略に出た。リーフを日米で発売したのである。トヨタに主導権を握られ、あえてまだ行方の見えていなかった電気自動車に賭けたのであろう。いわば、トヨタに「致されて」追い込まれて、電気自動車発売へと動いたように見える。

 開発責任者自身が当時の雑誌のインタビューで、「不安が大きい」と答えた戦略だった。結果は、残念なものだった。発売から2013年までの三年間の累計販売台数は世界で10万台に過ぎず、当初目標に大きく届いていない。

 主導権を握るための戦略とは何か、という観点から『孫子』のさまざまな箇所で述べられていることを概観してみると、およそ二つのパターンを孫子は考えていると思われる。

 一つは、チャンスが到来したときに主導権を握れるように、自分の準備を整えておく、という戦略である。前々回で説明した「まず勝てる態勢を作る」という戦略に近い。たとえば孫子は、さまざまな変化への対応を議論している九変篇(第八)で、こういう。

「其の来たらざるを恃(たの)むこと無く、吾れの以て待つ有ることを恃むなり」(九変篇〈第八〉金谷治訳注『新訂 孫子』岩波書店、108頁)

 つまり、敵がやって来ないことをあてにするのではなく、いつ敵が来てもいいような備えを自分がもつことを頼みとするべし、というのである。その備えがあれば、敵が来たときにも主導権を握るような戦術をとれる余裕があるであろう。

 主導権を握る戦略の第二は、変幻自在に敵の裏をかき、スピーディーかつ徹底して自分の戦術を変化させることで、相手を翻弄し、疲れさせ、そこから相手の虚を多くすることである。そうして生まれる虚をつけば、主導権を握れるし、一気に勝てることもある。

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