孫子に経営を読む

人に致して人に致されず――主導権を握ることが、戦略の鍵 伊丹 敬之氏

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「善く戦う者は、人に致して人に致されず」
「善戦者、致人而不致於人」 虚実篇(第六)金谷治訳注『新訂 孫子』岩波書店、74頁

 人に致して人に致されず、とは、分かりにくい表現だが、致すという言葉を「自分の思うように動かす」と理解すればよい。「人に致す」とは、他人を自分の思うように動かす、誘導する、ということである。だから、「人に致される」とは、他人の思うように自分が動かされてしまうこと、となる。

 とはいえ、「思うように人を動かす」といっても、完全に自由自在に他人を動かすことなど、催眠術でもない限り、無理だろう。しかし、相手の思うようにはさせない、自分に有利なように戦場での動きを導こうとすることならば、ある程度できるであろう。

 それは、戦の場での主導権をとる、ということである。主導権を握るとは、自分が書いたシナリオに沿うように相手の行動を導くことだからである。また、相手のシナリオ通りには動かずに済むようにする、ということでもある。

 この節(回)のタイトルにした言葉は、虚実篇(第六)の冒頭の一節に出てくる。いわば、虚実篇全体のトーンセッティングである。それはおそらく、主導権を握ることが虚実の戦略の最重要ポイントだ、と孫子がいいたいからであろう。虚実の展開を考える必要がある最大の理由は、戦場での主導権を握り、その結果として戦さの形勢を自分に有利なようにもっていきたいから、ということである。

 ビジネスの世界の戦略でも、競争相手に主導権を握られるのと、こちらが主導権をもつのとでは、結果に大きな違いが出る。

 たとえば、自動車産業のエコカー戦略でのトヨタ自動車である。トヨタは1997年に初代プリウスを発売して以来、世界的にハイブリッド車市場で先頭を走り続けてきた。2014年現在では、小型のアクアから大型のレクサスLS460Lまで、多数のハイブリッド車をラインナップしている。世界的にも、ドイツのBMWへの技術供与をはじめとして、トヨタ陣営に参加しようとする企業は多い。つまり、電気自動車がまだ十分な存在感を示すまでに至っていない中、トヨタは世界の自動車産業のエコカー戦略で主導権を握り続けてきた。

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