孫子に経営を読む

上下が欲を同じくし、経営者は現場に口出ししない 伊丹 敬之氏

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 第二節の五つの鍵要因は、君が(あるいは経営者が)考えるべき要因である。いわば、何にかんして思考をめぐらすべきか、についての五つの項目である。そして、この節で解説している「勝ちを知る」者の五つは、君が実現を目指すべき、「あるべき姿」そのものを描いている。

 つまり、第二節の言葉では孫子は「君は何について考えるべきか」を述べ、この節の言葉ではそうした思考の結果として、より具体的に、「どんな状態の姿に国を、組織をもっていくべきか」を述べているのである。

 考えるべき要因をはっきりさせるのはもちろん重要だが、それだけでは思考の入口だけであり、不十分である。その要因についての思考をどこへ向けてめぐらせればいいのか、目指すべき方向(つまり出口)をはっきりさせる必要がある。つまり、「何について考え、どこを到着点とするか」、入口と出口の両方が必要だ、という思考の法則を孫子は教えている。

 思考の結果としてどこを目指すべきか、どこまで行かなければいけないか、それを意識していないと、思考はただ空回りになりがちで、具体的な行動案など思いつかない。しかしそれでも、考えたという自己満足は感じてしまう。それで、十分に思考をめぐらせたと錯覚する人も出てくる。

 経営学の本に載っている分析枠組みの多くは、こうした「何について考えるべきか」を書いたものである。企業の強みと弱み、環境の機会と脅威を分析するというSWOT分析などはその典型例であろう。それで分析したからといって、わが社はどうすべきかという具体的行動案が出てくるわけではないが、分析したという自己満足は残る。われわれ経営学者も気をつけるべき錯覚であろう。

伊丹敬之 著 『孫子に経営を読む』(日本経済新聞出版社、2014年)第一章「経営の本質」から
伊丹 敬之(いたみ ひろゆき)
東京理科大学大学院イノベーション研究科教授。1969年一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。72 年カーネギーメロン大学経営大学院博士課程修了(PhD)。その後一橋大学商学部で教鞭をとり、85年教授。この間スタンフォード大学客員准教授等を務める。

キーワード:経営、管理職、企画、人事、人材、経営層

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