孫子に経営を読む

企業経営に通じる五つの鍵要因――まず理念で人心の統一を 伊丹 敬之氏

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「一に曰わく道、二に曰わく天、三に曰わく地、四に曰わく将、五に曰わく法」

「一曰道、二曰天、三曰地、四曰將、五曰法」 計篇(第一)金谷治訳注『新訂 孫子』岩波書店、26頁

 これが、君(君子)が兵について考える際に注目すべき五つの鍵要因であると孫子がいうものである。

 前回で引いた「其の情を索む」という文章の直後に、この一文がくる。そして孫子は続いて、この五つの要因の意味を簡潔に説明している。

 まず道とは、「民をして意を上と同じくさせる者」だという。道という言葉自体は、あるべき姿についての理念のことであろう。それを君がしっかりと考え、かつきちんと提示すれば、上下の意思を統一させる機能をもつ、という。そして、そうした意思統一ができれば、民は自分の生き死にを君に委ね、疑うことはない、とまで孫子は続いて書いている。

 第二と第三の要因は、自然環境のことを指している。天とは気候、天候や時間、地とは地形などである。いずれも戦争を実際に行うにあたって重要な環境条件である。企業経営の世界であえて解釈すれば、天とは人口や資源という自然環境や技術環境などであろうか。そして地とは、国際環境や市場環境という人間社会の環境を指すと考えればいいだろう。

 いずれも、一企業ではどうしようもない環境条件で、しかし時代の流れを決めているものである。企業としてはうまく利用すべき、対応すべき外部要因、と考えればよい。

 第四の要因、将とは、現場の戦闘の指揮官である。企業でいえば、現場の事業の責任者といっていい。将が備えるべき要件について孫子は、智、信、仁、勇、厳、だと簡潔に述べるだけである。

 そして最後が、法である。法とは、法律のことではなく、組織のマネジメントのための経営システムと思えばいい。孫子の言葉では、曲制、官道、主用が、法の内容である。曲制とは軍隊の部隊編成、官道は職制や権限、主用は指揮命令系統のことである。つまり、孫子がここでいう法とは、企業の言葉でいえば、組織の構造とその運用体制、つまりは経営システムのことなのである。

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