孫子に経営を読む

物理と心理の、両方の虚を撃つ 伊丹 敬之氏

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「兵の形は実を避けて虚を撃つ」
「兵之形、避實而撃虚」 虚実篇(第六)金谷治訳注『新訂 孫子』岩波書店、87頁

 孫子の戦略の真髄として、前々回では「正を以て合い、奇を以て勝つ」という言葉を紹介し、その次に「先ず勝ちて而る後に戦いを求め」という言葉を取り上げた。「先ず勝ちて」というのは、「正」の戦略のもっとも重要な点を指している、といっていいだろう。

 しかし、孫子の戦略論のユニークさは、「正」こそもっとも大切といいながらも、勝つための決め手となる「奇」について、さまざまな観点から考察していることである。それらの「奇」の多彩さと深さに、古来多くの武将があるいは膝を打ち、あるいは眼を開かれたりしただろう。

 これから三つの節(回)を使い、そうした「奇」のポイントを指摘していると私が考える孫子の言葉を紹介していこう。「虚実」「主導権」「詭道」の三つである。

 今回のタイトルとして引いた言葉は、戦略の虚実を考えることの大切さとそのバリエーションの多さを説いている。

 兵の形とは、戦略のあり方というほどの意味に考えればいいだろう。そして、「実を避ける」とは、相手が「充実している」ところを避けるということである。その「充実」としてどのような現実的状況を考えるか、孫子の考察は多面的に広がる。たんに軍勢の集中というような物理的充実だけでなく、意図や気の充実も孫子は考えていく。

 「虚を撃つ」とは、相手が手薄なところ、意図していないところを攻める、という意味である。「虚」についても、たんに軍勢の薄いところという物理的な虚のみならず、相手の意図の虚、相手の気の虚など、さまざまに孫子の考察は広がっていく。

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