トヨタ式リーダー育成法

「失敗に学ぶ」「失敗を繰り返さない」精神を具現化する 三澤 一文

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徹底的にお客さま視点で振り返る

 初代カローラのように、それまでにない、まったく新しい内容が問題解決の対象になっている場合は、しつこいまでに、お客さまの視点で振り返る必要があります。そうでないと、ついつい、自社もしくは自分中心の目線で振り返りを行いがちなので、細心の注意が必要です。

 世界初の量産ハイブリッドカーである初代プリウスの試験車評価の場合も、同様でした。従来のガソリン車と引けをとらない実用性を目指した初代プリウスの開発は、困難をきわめました。ハイブリッドカーとしての新開発技術がたいへん多い中、技術上の問題を個別にひとつひとつ、現場で解決していくには、時間的に限界がありました。

 そこで、トヨタがとった方法は、実物のハイブリッドカーを世界中で走らせてみる方法でした。これまでのガソリン車での経験からは想像がつかないような点で、お客さまに不満を与えるようなことがないようにするためには、この方法がベストと判断したからです。試験走行の距離は延べ100万キロメートルに及びました。実際、ガソリン車であれば問題にならないような走行条件で、一時的とはいえ、パワー不足になることもわかりました。

 結局、これでお客さまが満足できるか、という自問自答を、100万キロメートルの試験走行のあいだで、数限りなく繰り返し、その結果をすぐさま技術的な改善に反映していくことで、世界初の実用ハイブリッドカーが成功裏に誕生したわけです。

 繰り返しになりますが、これまでにない新しい問題に取り組むときは、常に目線をお客さまにおいて何度も振り返ることが重要です。既存のものとの比較では改善にとどまってしまい、また、先々の発展性も期待できないような問題解決になってしまうおそれがあります。

 また、このような顧客視点での振り返りを習慣づけることは、個人の問題解決能力を鍛えるうえでも、たいへん重要です。問題解決の成功要因や失敗要因をチームや関係者と共有して議論する際にも、この顧客視点が欠けないよう、留意しましょう。

三澤一文 著 『トヨタ式リーダー育成法』(日本経済新聞出版社、2014年)7章「実行の結果と過程を関係者と検証する」から
三澤 一文(みさわ かずふみ)
経営コンサルタント。SoftwareONE Japan(株)代表取締役社長。1978年早稲田大学理工学部卒。83年米国マサチューセッツ工科大(MIT)工学修士取得。東芝の技術者を経て、88年より経営、技術、ITのコンサルティングに従事。自動車や自動車部品メーカーの経営者・リーダー育成、人材・組織開発、などを専門とする。アクセンチュアのアジア太平洋地区自動車産業の統括パートナー、ベイン・アンド・カンパニーのパートナー(共同経営者)、SAPジャパン(株)専務執行役員などを歴任。著書に『技術マネジメント入門』(日経文庫、2007年)、『なぜ日本車は世界最強なのか』(PHP新書、2005年)、監修書に『日本の工業』(ポプラ社、2008年)など。

キーワード:技術、経営、経営層、イノベーション、管理職、ものづくり、グローバル化、人事、人材、働き方改革

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