ただし、「早く安く」するために、顧客側にいくつかの割り切りも必要になる。たとえば開発に使うクラウド(システムの開発・実行環境)は、開発生産性を優先してベンダーが使い慣れたものを利用するとか、打ち合わせは必ずベンダーのオフィスでやるなどだ。これまでの受託ソフト開発では、顧客のシステム環境や開発方法にベンダーが合わせていたので、それらに習熟するだけでも余計な時間がかかっていた。
「CMO代行業」など異色のベンチャーが登場
――ITベンチャー経営者のもう1つのタイプである「コンサルや他業種からの参入組」には、どういうところがあるのか。
これもいろいろあるが、ある分野に特化した専門性を売りにしているベンチャーが多いと思う。
たとえば、「ギックス」という会社。アクセンチュアや日本IBMで経営戦略の立案やデータ分析をしていた3人が独立して作った。「CMO(最高マーケティング責任者)代行業」という新しい発想のビジネスモデルを掲げ、戦略コンサルティングとビッグデータ分析を組み合わせて提供する点が新鮮だ。
ギックスは今、JR東日本グループのクレジットカード会社「ビューカード」で、利用者データを詳細に分析し、売り上げや利益をどう伸ばすかというビューカードのCMOとしての業務を請け負っているという。ビューカードの会員数は400万人を超えるが、その取引明細データの分析システムを作り、データを解析する作業もギックスが担っているようだ。
一昔前なら、400万人の明細データを分析するのに必要なシステムは数千万円にはなったはず。しかし、たった3人の会社でも購入できる価格でシステムを調達できてしまった。最近のコンピューターの価格性能比が著しく向上したこともあるが、クラウドサービスやオープンソース・ソフトなどを組み合わせたためでもある。一時的にデータ処理能力が足りなくなれば、クラウドから借りればいいのだから、余計な設備投資に資金を回す必要がない。