現場スピードを極める情報活用

下請けの格差拡大、ソフト業界の憂鬱 ITジャーナリスト 田中克己氏

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

いつになってもなくならない「意思疎通の欠如」

 最近の報道でも、システム開発トラブルを巡る訴訟の話題がいくつかあった。

 たとえばこの9月には、野村ホールディングスと野村証券が大手ITベンダーに対し、システム開発が途中で頓挫したことを巡って損害賠償の訴訟を起こしていることが明らかになった。損害賠償の請求額が約33億円に上ることから、大規模な開発案件であったことがわかる。

 こうしたシステム開発トラブルを巡る訴訟は、いつになってもなくならない。色々な原因が絡み合っているわけだが、過去の事例から典型的なパターンはわかっている。顧客とITベンダーの意思疎通が欠如していて、「言った、言わない」の争いになるのだ。その根本には、「情報システムは"形のない、曖昧なもの"であり、それを外部の人に正確に伝えることが難しい」という従来型受託ソフト開発の問題が潜んでいる。多重下請け構造では、それがより強く影響するようになる。

――受託ソフト開発業界で多重下請け構造の問題は昔から指摘されてきたが、なぜ変わらないのか。中堅・中小ベンダーがじり貧になっているのはわかっているのだから、多重下請け構造から抜ければいいという考え方もあるだろう。しかし、いまだ抜けずに下請けを続けている。

 やはり、案件が大きくなるほど財務力が必要になるし、営業力や信用の問題もあった。知名度が低く、取引実績のない中小ベンダーには、なかなかシステム開発を発注してくれないだろう。

 営業力に関しては、日ごろからパソコンやシステム機器を販売している業者が強くて、顧客も付き合いのある販売業者にシステム開発案件を持ち込むことが多い。そうなると、案件が大手ベンダーかその系列のほうに流れていってしまいやすい。だから中小ベンダーは多重下請け構造に頼りたくなる。

 それから、受託ソフト開発ベンダーの営業利益率が平均で5%前後しかない点も理由の1つになっている。日本の製造業などと同程度ではあるが、あまり儲かっているわけではないので、たとえば新規事業をやるための研究会だとか人材教育費などに回すお金がそれほどない。つまり、現状を変えていくだけの体力が足りないのだ。

――とすると、「これからも下請け構造から逃れられない」という救いのない話なのか。

 いや、そうではない。重要なことなのだが、「クラウド」がシステム開発を巡る状況を大きく変えようとしている。ある意味、画期的だ。

 中堅・中小企業が多重下請け構造から抜けづらい理由は、「財務力」や「信用」が足りないとされてきたからだが、クラウドサービスを使ってビジネスのやり方を変えると2つの課題を解決あるいは緩和できるのだ。

閲覧履歴

    クリッピングした記事

    会員登録後、気になる記事をクリッピングできます。