不祥事は、誰が起こすのか

不祥事の兆候や原因をデータであぶり出す 植村修一氏

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 不祥事との関連で言えば、『ベイズな予測』(宮谷隆、リックテレコム)には、最近のベイジアンモデルの応用例として、米国における、クレジットカードの不正利用や健康保険の不正請求の捜査、振り込め詐欺の捜査などが出てきます。その場合、モデルは、不正利用や不正請求そのものを特定するわけではありません。健康保険の場合ですと、医療費や投薬量、検査内容等様々なデータを用いて、通常の治療措置から外れる行為に線引きが行われ、そこで得られた「洞察」を基に監査が行われ、不正の発見と告発というプロセスになります。

 これまで見てきたように、事件や事故をもたらす要因は複雑多様で、場合によっては「不運」の連鎖であり、事件や事故の発生自体「不確か」です。それらの中には必ずしもデータとして蓄積していないものも多く含まれます。こうした情報を処理して、不祥事の種がどこにばらまかれているのかを把握することができれば、経営の健全性確保のために大いなる前進だと考えます。

 ちなみに、前述『異端の統計学ベイズ』によると、かつて米国では、このモデルが、冷戦下の未知のリスクの点検や原発事故の予見などに用いられました。同様に、例えば、企業や医療現場で収集されるヒヤリ・ハット事例を基に、ベイジアンモデルを用いて潜在的な大事故や障害を予見したり、その確率をあぶりだせるのではないでしょうか。

 一方で、検査やテストの有効性や費用対効果を考える上でも有用かもしれません。同書では、乳がん患者が乳房X線撮影検査で陽性になる確率が高いにもかかわらず、何の症状もない人がこの検査を受けて乳がんが判明する確率は極めて低いとして、同検査を日常受けなくてもよいとしたアメリカ政府のチームの発表を紹介しています。

 銀行は言うまでもなく、いろいろな作業現場で重層的なチェックやテストにより、安全性や正確性を確認しています。ベイジアンモデルを用いた検証により、その追加的効果があまりないとわかれば、費用対効果の観点から廃止する、ないし他の手段に切り替えるということが考えられそうです。

植村修一 著 『不祥事は、誰が起こすのか』(日本経済新聞出版社、2014年)第8章「不祥事をデータで捉える」から
植村 修一(うえむら しゅういち)
大分県立芸術文化短期大学教授。1956年福岡県生まれ。東京大学法学部卒業後、日本銀行入行。調査統計局経済調査課長、大分支店長、金融機構局審議役などを経て退職。民間会社や独立行政法人経済産業研究所に勤務の後、2013年より現職。著書に、『リスク、不確実性、そして想定外』『リスクとの遭遇』などがある。

キーワード:経営、企画、経理、経営層、人事、人材、働き方改革、管理職、ものづくり

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