不祥事は、誰が起こすのか

歴史に学ぶ――なぜ不祥事は起こるのか 植村修一氏

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 太平洋戦争後半における日本海軍劣勢の要因のひとつがレーダー装備の遅れであることはよく知られています。戦前、技術者の間で基礎研究は他国にひけをとることなく行われていましたが、なぜか上層部の関心は薄く、ミッドウェイ海戦の教訓からあわてて開発を促進したものの、日米の格差は開くばかりでした。ミッドウェイ海戦当時、戦艦「日向」にはレーダー(日本軍でいう電波探知機、略して電探)が試験的に積載されており、その性能は悪くないと「日向」の艦長が評価していましたが、同艦は南雲機動部隊には同行せず、せっかくの宝物は持ち腐れに終わってしまいました。太平洋戦史のプロたちの手による『連合艦隊・戦艦12隻を探偵する』(半藤一利・秦郁彦・戸高一成著、PHP研究所)では、無理してでも機動部隊にこれを入れておけば、空母「赤城」以下が全部やられることはなかったのではと残念がられています。

 不祥事を含むリスクの顕在化を未然に防ぐのに必要なのが「気づき」です。しかし、個々人の経験や勘に頼るだけでは不十分で、各種データや出来事を組織的に収集し、分析するための様々な仕掛けがなされています。例えば医療現場では、各種法令やガイドラインに基づいて、医療安全管理のための体制整備がなされていますが、その中で重要な役割を果たすのが、事故や事故になりかけた事例に関する報告です。患者に危害を及ぼすまでには至らなかったものの、ヒヤリとしたり、ハッとした経験に関する報告書をインシデント・レポートと呼びますが、これはまさにレーダーの役目を果たします。

 カネボウ化粧品の美白製品問題においては、もともと親会社である花王が採用し同社にも導入された消費者相談システム(エコーシステム)には、2011年10月時点で白斑症状についての登録第1号がなされています。2013年7月に自主回収が発表されるかなり前で、第三者委員会の調査報告書ではその後の経緯も踏まえ、同システムの運用が不十分でその効用が発揮されなかったことが、問題に関する情報を散在させ、判断を遅らせたことにつながったとしています。

 レーダーも単に装備しているだけでは宝の持ち腐れと言えます。重要なことは、レポーティングや情報伝達することに対するインセンティブ(誘因)を付与することです。組織としてほかの仕事が優先されているのではないか、レポーティングに手間ひまをかけることによって、営業成績が落ちたり、残業代が増えたりすることがマイナスとして評価されるのではないか、と思われている限りは、レーダーがあったとしてもうまく機能しません。防御より攻撃を優先した太平洋戦争当初の日本海軍と同じです。

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