不祥事は、誰が起こすのか

歴史に学ぶ――なぜ不祥事は起こるのか 植村修一氏

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ならぬことはならぬものです

 数学者でエッセイストの藤原正彦氏の『国家の品格』(新潮新書)で取り上げられ、NHK大河ドラマ「八重の桜」でも一躍脚光を浴びた「ならぬことはならぬものです」は、会津藩の子弟の集まり「什(じゅう)」での7つの決まりごと「何々してはなりませぬ」を固く守りましょうという、コンプライアンス標語です。今の時代にはそぐわない決まりごと(例えば、「戸外で婦人と言葉を交えてはなりませぬ」)もありますが、「虚言を言うことはなりませぬ」は、企業モラルとして、不祥事防止につながるでしょう。また、「卑怯な振舞をしてはなりませぬ」「弱い者をいぢめてはなりませぬ」は、独占禁止法で言う、不当な取引制限や不公正取引(例えば優越的地位の濫用)の禁止につながります。

 「正論」という言葉があります。辞書をひくと「正しい意見」とあり、正しければその意見が通ると思いきや、必ずしもそうではありません。ひとつには、その人にとっては正しいと思っていることが、ほかの人にとっては必ずしも正しくはない、すなわち、コンセンサスがないときです。もうひとつは、何が正しくて何が正しくないか、関係者はおよそわかっているものの、「コストや手間を考えると非現実的」「組織やトップの面子にかかわる」「外部で快く思わない人がいる」「今さら後戻りできない」など、様々な理由で、「正論」を採用することが拒まれるときです。

 『なぜ人と組織は変われないのか』(ロバート・キーガン&リサ・ラスコウ・レイヒー著、池村千秋訳、英治出版)では、リーダーと組織が変革を望んでいるにもかかわらず、それを実現できないとき、その要因は意思の欠如ではなく、必ず何かそれを妨げている要因なり裏の目標(著者たちはそれらを「変革をはばむ免疫機能」と呼び、それが原題『Immunity to Change』となっています)があり、まずこれをあぶり出すことが重要として、その方法論を説きます。著者たちは教育学者で、能力開発という観点からのアプローチですが、経営管理の面からもいろいろ示唆に富みます。

 まず、人はもともと自己防衛のために不安を避けるようにできており、この不安管理システムが変革をはばむ免疫機能の正体としています。そのために、ものごとを知る上で、何を通して見るかという、いわばレンズやフィルムに相当するもの(認識をする主体)を、見る対象(認識の客体)の側に置くことで、免疫機能の正体がわかり、広い視野で変革のアプローチを見出すことができるとします。

 正論が通った結果不祥事が起きた、という話はまず聞きません。多くのケースでは、正論が通らない状況の中で起きてしまい、後から考えれば、やはりあのときこうしておけばよかった、との後悔を伴います。正論が通らないとき、また、正論を通さないとき、本当のところそれが何の理由なのか、何のために採用しないのか、何が変革をはばんでいるのか、よくよく考えることが必要です。

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