クロネコ遺伝子-生き続ける「小倉昌男イズム」-

「需要など存在しない」――必要なのは新しい世の中をつくること 岡田知也氏

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 小倉氏は、純粋にひとりの人間として、自分がどんなことをしてもらったら喜ぶかを見つけることに目を輝かせていました。平均的で一般的な国民のひとりとしての感覚を大事にしていたのです。大会社の社長にありながら、他人を威圧するような雰囲気を周囲に感じさることは決してありませんでした。やさしくおとなしい人柄。これが、社内でも個人としても小倉氏を知る人たちの感想です。会社で声を荒立てるようなことはありませんでした。

 本当に芯の強い人というのは、こういう人を指すのか――私は、穏やかな強気リーダーを観察していたものです。

『人が喜ぶこと。これがお客様の喜んでくれること』

 荷物1個でも簡単に送れたら、自分(小倉氏)も喜ぶだろうな。これが、宅急便開発の原点です。この原点が確信に変わったとき、さまざまな商品・サービスの開発が始まったのです。

 小倉氏にとって商品開発とは、お客様に喜んでいただきつつ会社が損しない仕組みをつくることでした。当然、サービス内容については一切、妥協しませんでした。サービス開発の原点は人が喜んでくれることだからです。会社都合の論理でサービス内容が歪められることをすごく嫌いました。会社が損しないように、つまり、商売として成り立つように知恵を絞ることが社員の仕事と決めていたからです。逆にそうしないと、人が喜んでくれることを世の中に提供できないと考えていたのです。

 『お客様が喜んでいただけること』もクロネコ遺伝子の原点になり、その実現に向けて、本社も現場も努力していきました。会社が損するからという理由をつけて、サービスに妥協をしてはいけない。我々の知恵と努力が足りないからだ。いつもそう教えていました。

 お客様という人が喜び、その心の笑顔のために、会社は仕組みを考える。

 どんなにお客様が喜んでくださるサービスを開発しても、会社が損を出し続けていたのでは、サービスを提供し続けることはできない。会社が損してしまうからと高い料金でサービスを提供しても、お客様には喜んでいただけない。お客様に喜んでいただき、会社が損しないように知恵を絞るのが私たち会社の存在意義だ。そう、教えてくれました。

 お客様の喜びという「心」と、高い論理に裏付けされた仕組み創造の「頭」。心優しき隣人という側面と、頭脳明晰な経営者。いつも、2つの顔を持つ小倉氏が見つめていた先は、幸せに暮らす人たちの姿だったのです。

岡田知也 著 『クロネコ遺伝子-生き続ける「小倉昌男イズム」-』(日本経済新聞出版社、2014年)2「見つめていた心」から
岡田 知也(おかだ ともや)
1983年、慶應義塾大学法学部卒業後、ヤマト運輸入社。宅急便創始者・小倉昌男氏のもと、経営理論を学ぶ。郵政民営化時に旧郵政公社に転職。後に、郵便事業で集配営業推進部長などを歴任。その後、マイルブリッジを設立し代表取締役就任、関連会社マイルエキスプレスの代表も務める。配送のラストワンマイルを大切な顧客接点と考え、上場企業から中堅企業までを対象に配送員改革、デマンドチェーン構築などの支援をしている。ペンネーム青田卓也として『社長でなくても変革は起こせる!』(日本経済新聞出版社)、『【ビジュアル図解】宅配便のしくみ』(同文舘出版)の著書2冊があるほか、専門誌、一般紙への寄稿、講演なども行う。

キーワード:経営、企画、営業、経営層、管理職、マーケティング、人材、研修、働き方改革

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