「なぜか売れる」の公式

「知る、買う、また買う」の好循環サイクルをつくる マーケティング アイズ代表取締役 理央 周

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 今、引っ越し業界はとても競争が厳しくなっています。ネット上には、1度に数10社からの見積りが取れる「一括見積りサイト」が多数存在し、料金を比較できるようになっています。そのため、激しい価格競争が繰り広げられています。多くの会社のホームページでは、トップで、「単身プラン、2トントラック、作業員2名、1万6800円」など、安さを前面に押し出した情報がアピールされています。

 けれども、この引越一番のホームページのトップには、料金表が載っていません。その代わり、幸せそうにほほ笑む家族の写真がアップされています。同時に、高品質な仕事をすることによって、顧客満足度が高いという点を強くアピールしています。

 価格競争が激しい引越し業界では、価格が多少高くなってもいいから、丁寧な仕事、サービスが充実した会社を選んでくれる顧客は、大切にすべき存在です。また、顧客単価が高くなる引っ越し、つまり家族の引っ越しをなるべく多く受けると、売り上げ効率を高めることになります。

 この点から考えると、新築の家に入居する家族の引っ越しを受けるのがもっとも望ましいと言います。頑張って建てた新居に入る場合、作業で傷をつけられてはたまらないので、多少、料金は高くてもいいから、いいサービスを提供してもらいたいと考えるからだそうです。

 そこで同社は、「いいお客様」から選んでもらうために、徹底的に顧客の声を聞きました。引っ越しは、顧客の声を活かして従来の商品を改良いていく「持続的イノベーション」が重要な業界です。作業が終了したあと、不満足だった点をアンケート用紙に記入してもらい、ドライバーが会社に持ち帰り、翌日の朝礼で全作業員にフィードバックし、すぐに問題を解決するのです。

 そして、顧客の声を活かして、実際の作業工程を大幅に改善しました。家具に傷をつけずに運ぶため、トラック全車の床をカーペット貼りにしたり、作業員が家に入るときには靴下を履き替えたりと、細部まで気遣いを欠かさず、懇切丁寧な引越しを目指しました。その積み重ねで、顧客満足度93%を実現したわけです。そのうえで、ホームページでは高品質な仕事と顧客満足度を訴えることにしました。

 この、安さをセールスポイントにしないという戦略は、価格が提示されると、それによって、内容も類推されるというハロー効果などの面から考えても、高品質を暗黙のうちにアピールすることができ、とても合理的です。

 引越一番のホームページは、「いいお客様は値引きよりも、いいサービスを求める」という前提にたち、徹底した顧客目線での表現を志向しているわけです。

理央周 著 『「なぜか売れる」の公式』(日本経済新聞出版社、2014年)第3章「とびきり美味しいカフェ、さて店名は言えますか――「どうやって」を練る」から
理央 周(りおう めぐる)
本名・児玉洋典。マーケティング アイズ代表取締役。関西学院大学経営戦略研究科准教授。1962年、名古屋市生まれ。静岡大学人文学部経済学科卒。大手製造業勤務などを経て、インディアナ大学経営大学院にてMBAを取得。アマゾンジャパン、マスターカードなどでマーケティング・マネージャーを務めた後、2010年より現職。マーケティングに特化したコンサルティング、研修、経営講座に携わる。2013年より、関西学院大学で教鞭をとる。著書に『サボる時間術』『ひつまぶしとスマホは、同じ原理でできている』(日経プレミアシリーズ)、『テレビショッピングはなぜ、値段を最後に言うのか?』(ダイヤモンド社)、『最速で結果を出す人の戦略的時間術』(PHP研究所)がある。

キーワード:管理職、プレーヤー、マーケティング、営業、人事、人材、研修

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