「なぜか売れる」の公式

顧客は「機能」ではなく「価値」で商品を選ぶ マーケティング アイズ代表取締役 理央 周

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 従来のサーカスでは、ウマやゾウ、ライオンなどの動物ショーや、人間の曲芸などを中心とした演目が行われてきました。メインのターゲット層は子どもたちです。けれども、いまや子どもを対象とする娯楽は、ゲームやアニメ、インターネットなど多種多様です。サーカス業界は観客の減少を食い止めることができず、売り上げが落ち込んでいました。加えて、ショーで動物を使うには購入費用、飼育費用、輸送費用など、莫大なコストがかかります。サーカス業界は、売り上げが落ちる一方でコストがかさむ、負のスパイラルに陥っていたのです。

 シルク・ドゥ・ソレイユはサーカスだけではなく、その周辺のエンターテインメントに目を向け、ダンスやミュージカル、演劇などの要素を取り入れると同時に、動物ショーを一切とりやめました。差別化と低コスト化を実現したわけです。チケット価格も、演劇と同水準、サーカスの平均の数倍に設定しました。エンターテインメント界に、新しいカテゴリーをつくれたため、競合もおらず、価格設定が自由にできたのです。それでも、大人の観客を惹(ひ)きつけることに成功し、サーカスに興味のなかった新たな顧客層を取り込むことができました。

 サーカスもバレエも演劇も新しいものではありません。シルク・ドゥ・ソレイユはそれらを組み合わせ、まったく新しいカテゴリーを生み出したのです。

本当に売りたいものこそ「何を」にする

 最後に、もう1度、なぜ「(1)何を」を最初に考えなければいけないのかを別の側面から考えたいと思います。

 先に、「(3)どうやって」から考え、「(1)何を、(2)誰に」を後回しにすると、いろいろ不具合が起こって、マーケティング的に失敗することが多いと書きました。これをより俯瞰(ふかん)した視点で考えると、「(1)何を」で一番重視すべき顧客に提供できる「価値」を軽視すると、顧客から得られる「利得」に目が向きすぎてしまうのです。

 よく言われますが、利得が目的となったビジネスは長続きしません。また、みなが利得を重視しすぎて「何を」を提供すると、その市場も先々弱っていくかもしれません。ですから、「何を」を考える際には、自分たちは何を提供したいのか、何を提供すれば世の中に価値を与えられるのか、そして、その価値を最大化するにはどうすればいいのかという視点を忘れてはいけないわけです。その大前提を踏まえたうえで、スペックや価格なども含めた製品戦略を練り尽くすことが必要となります。

 そして「何を」をしっかり考えたら、その価値を少しでも多くの顧客に届けるために「(2)誰に、(3)どうやって」の戦略を考えていくのがビジネスの王道と言えます。

理央周 著 『「なぜか売れる」の公式』(日本経済新聞出版社、2014年)第1章「顧客には、『天ぷらうどん』を勧めましょう――「何を」を考える」から
理央 周(りおう めぐる)
本名・児玉洋典。マーケティング アイズ代表取締役。関西学院大学経営戦略研究科准教授。1962年、名古屋市生まれ。静岡大学人文学部経済学科卒。大手製造業勤務などを経て、インディアナ大学経営大学院にてMBAを取得。アマゾンジャパン、マスターカードなどでマーケティング・マネージャーを務めた後、2010年より現職。マーケティングに特化したコンサルティング、研修、経営講座に携わる。2013年より、関西学院大学で教鞭をとる。著書に『サボる時間術』『ひつまぶしとスマホは、同じ原理でできている』(日経プレミアシリーズ)、『テレビショッピングはなぜ、値段を最後に言うのか?』(ダイヤモンド社)、『最速で結果を出す人の戦略的時間術』(PHP研究所)がある。

キーワード:管理職、プレーヤー、マーケティング、営業、人事、人材、研修

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