経済学的にありえない。

政府の「言うこと」を市場はどのくらい気にするか 佐々木一寿氏

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

古典派と緊縮財政派、それぞれの主張

 自由をいちばん重要なものとして求めるタイプであれば、金融政策も財政政策もどちらも最小限で、と思うでしょう。

 モノから労働まで、自由な取引で自分たちが交換できたほうが、全体としてロスが少ないし、経済全体にとってもいいのではないかということは(リカードやマーシャルといった経済理論の古典をつくった巨匠も言っていることですし)、経済学の発展の経緯から見ても、受け入れられやすい傾向があります。まずは私たちの自由が重要で、だからこそ自由をある程度割譲(かつじょう)しているのですから、これはこれで頷けるのではないでしょうか。

 好況時ではこれでみんな困らないとして、不況になったらどうするでしょうか。

 自由に取引をする環境があっても、あまり取引が活発でなく不況だというのであれば、それは自由意志によるものだし、回復まで待てばいいのではないか。これが「自由放任」とも言われるスタンスで、時間がくれば、いいものが安くなったり、欲しいものが新しく出てきたりして、いずれ自由市場の機能により自然に回復するだろう、という意見です。ただ、不況は失業や社会不安を生んでしまう。できれば解決したほうがいいのではないか。そのために何ができるか、ということで、また意見が分かれてきます。

 一方で、「不況は、市場による淘汰が大きく起きているときで、将来の好況につながるもの」という立場があります。これは供給サイドに問題があり、そのよくないところが不況により壊れてしまったほうが、より早く資源の再配分が最適化され、供給サイドが結果的に強化されて、次の経済成長につながる、という意見です(「規制緩和論」などは代表例)。

 政策的には、温情的な規制を排し、それにかかっていたおカネを縮小させます。また将来に到来する好況の足を引っ張らないようにいまから緊縮財政をする、ということにもなりますが、おおむねこのような立場をとる人を「緊縮財政派(オーステリアン)」と呼ぶ人もいます。積極的な金融政策については中立的か否定的であることが多いようです。

 では、将来の好況の到来のために痛みを伴うしょうがないことだとしても、私たちはこの不況をどのくらい耐えればいいのでしょうか。

「不況を我慢していたら、みんな死ぬ」というケインジアンたち

 古典派は「じきに」、オーステリアンは「そのために『創造のための』破壊が早くなされるべき」という意見をおおむね持っているとして、そこには、景気を引っ張る「サプライサイド」というエンジンがいいものに変わればそのうちよくなる(長期的に)、というコンセンサスがあります。その意見は、自由市場の裁定によるメリットを重視する経済学的思考としてはわかるとして、しかし、それでも景気がなかなか回復しないとすれば、不況のなか我慢をして待つしかないのでしょうか。

 そこで、「いやいや、そんなの待ってたら、私たちはみんな死んでしまうので、いまなんとかしたほうがいい」と言う画期的な人が出てきました。J・M・ケインズです。経済政策でいまから景気をよくすればいいじゃないか、というのがそのザックリした意見です。ただ、経済政策は政府の管轄です。そもそも、それで景気が回復するのか。そうだとしても、政府が勝手に景気をよくしたり(冷ましたり)してもいいのか、ちょっと作為的だし、健全じゃないんじゃないか、というのが当時の大多数の意見でした。

 それに対して、ケインズは、それで景気がよくなって不況から抜けだして、雇用も社会も安定するなら、ただ待っているよりもいいのではないか、いまがあっての将来でもあるんだし、と主張します。

 その立場を支持する(最近の)ケインジアンは、まず、金融政策に関して積極的に手を打つべきといい、金融緩和を進めます。具体的には、政策金利の下方への誘導です。これでおカネを借りやすくして、投資を促進しようとします。通貨量を通じて物価の水準をチェックするのが主な仕事である中央銀行は、ケインジアンたちからすれば、それに加えて景気対策も考慮するべきだ(雇用の安定にもつながるし)、というわけです。余談ですが、米国の中央銀行(にあたるのがFRB、米連邦準備理事会)は、物価のコントロールに加え、失業率への責任も負っています。

 景気が芳(かんば)しくなければ、「まずは金利を下げて金融緩和をする」。これで景気が回復するならば、お安いもの(!?)だというわけです。

 しかし、それでもなかなか景気がよくならないとすれば、どうすればいいか。そこでケインズが考えだしたのが、財政政策を景気対策に用いる、という方法です。

関連情報

閲覧履歴

    クリッピングした記事

    会員登録後、気になる記事をクリッピングできます。