経済学的にありえない。

五輪やW杯、どれだけ開催国の経済に効くか 佐々木一寿氏

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 「きっとまたクルゼイロの価値は下がるにちがいない」とみんなが思い込んでいるせいで、実際、本当に現実になってしまう。この「予想の自己成就」とも呼ばれるそのメカニズムのせいで、インフレが慢性化していたことを見抜いたフェルナンド・カルドゾ財務相と経済学者たちは、巧妙な対策を講じます(「プラノ・レアル(レアル計画)」)。価値が下がり続けるクルゼイロとともに、およそ1ドルと同様になるように設定された「レアル」の両方で価格を表示するようにしたのです(1994年3月)。

 クルゼイロでの値段は上がり続けるのに、レアルでの価格は、ドル同様でほぼ横ばいに推移します。これは実質的にレアル(≒ドル)とクルゼイロの為替レートともいえるのですが、人々はクルゼイロ建てだと値段が変わりやすいのにレアル建てだと価格がほぼ一定であることに気づき、「モノの値段は常に上がるものではない」と考えるようになったようです。

 そして、頃合いを見て、レアルのほうをブラジルの正式な通貨とすることを決め(1994年7月)、なんと10数年に及ぶインフレが直後にあっけなく終わってしまいました(ここで、経済物理学でいうところの「相転移」が起こったのだろうと私は考えています。これは平易に言うと、みんなが一斉に新しい状況に慣れてしまうために起こります)。

 その即時収束が可能となった背景には、並行して、カルドゾ財務相たちによって財政健全化が順調に行われていたこともありました。つまり、財務基盤的なお膳立てはすでに整っていたのです。その後、通貨が安定したことで経済的環境が整い、ブラジルの高い経済発展につながっていきましたが、財政や金融の失策だけでなく、国民の思い込みによってもインフレは起きてしまう、ということは特筆すべきことだと思いますし、少なくとも私は驚きました。

 物価へのみんなの予期が実際に物価に影響する(そしてこれは通貨価値へのみんなの予期が実際に通貨価値に影響するということと表裏ですが)、という事実を非常に端的に物語っているのですから!

失業率の推移にまずは着目するべき?

 ブラジル経済の今後をうらなううえで、まず真っ先に見るべきは、失業率の推移です。たとえ現状でGDP成長率のブレが大きい(国際経済でのシェアが小さければ小さいほど、そして経済的開放度が大きければ大きいほど、「運」が作用しやすい)としても、失業率であれば、より実際を映し出す鏡としてはふさわしいかもしれません。

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