経済学的にありえない。

負けが込むと強気になるのはなぜか 佐々木一寿氏

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

「断捨離」の行動経済学的効用

 ひとつは、「えいっ」と捨ててしまうことです。

 経済学ではサンクコスト(埋没費用)という考え方があります。これまでに投入した費用が、無駄になったうえ取り返しが不能になった(埋没した)ときに、それにアンカーされずに振る舞ったほうが賢いというのが、ざっくりした説明です。たとえばチケット代を払った映画を最初の30分観て、自分には面白いとどうしても思えないと確信した場合は、チケット代にアンカーされずに映画館を出て、1時間半を有効に使ったほうがいいという考えですが、これを思い切って「そういうものだ」あるいは「映画選択眼の授業料だった」と割り切って適用してみるのは、一案だと思います。たとえばそのように考えつつ、保有効果を根本から取り除くことで、その連鎖を断ち切る。トレーダーのポジションの整理(損切り)は、そのような行動のひとつであるといえます。

 実際のモノに関しても、それは言えます。執着は認知を曲げてしまうとすれば、それを防止するには、洋服であっても、資料であっても、写真であっても、思い切って捨ててしまうほうがいいかもしれません。人間関係に関しては、......これは言及をやめておきます。

 ただやはり、躊躇はしてしまう。そんな場合はどうすればいいのでしょうか。

学習効果で冷静さを取り戻す!

 ひとは、学習によって、ある程度は認知バイアスを修正できることがわかっています。たとえば、保有効果を理解する、ということもそのひとつです。完全になくすことは難しいかもしれませんが、知ることの効果は大きいようです。

 一般投資家よりもプロの投資家のほうが、瞬時の判断でもより冷静さを保つようです。また、概してプロは、直感による素早い判断であってもより合理的である傾向が強いようです。ちまたでよく言われているように1万時間(フルタイムで数年)ほどの経験があるならば、直感もより的中の度合いが高まるかもしれません。

 理解して、学んで、防御の姿勢を覚えながら、ときにはそれを忘れて身を委ねる。

 愛着と執着の間を行き来しながら生きていかざるをえない運命に私たちがあるのであれば、それに長けていたほうが、合理的とはいえないかもしれませんが、器用な生き方かもしれません。このことは、必ずしも器用でもない私が、この稿を書きながら自身に言い聞かせた結論でもあります。

佐々木一寿 著 『経済学的にありえない』(日本経済新聞出版社、2015年)「負けの込んだギャンブラーが強気になるのはなぜか」から
佐々木 一寿(ささき かずとし)
経済コラムニスト、サイエンス・ライター、作家。横浜国立大学経済学部国際経済学科卒業、経済系・報道系の記者・編集者を経て、現在はビジネス・スクールに在籍。研究員、出版局編集委員としての著作も多数。著書に『「30分遅れます」は何分待つの?経済学』(日経プレミアシリーズ)。

キーワード:経営、マーケティング、管理職、人材、営業、イノベーション、経営層

関連情報

閲覧履歴

    クリッピングした記事

    会員登録後、気になる記事をクリッピングできます。