経済学的にありえない。

負けが込むと強気になるのはなぜか 佐々木一寿氏

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 これでは、芸人さんが初頭の「ツカミ」に執拗にこだわってしまったとしても、無理もないのではないでしょうか。それは、幸せの素でもあり、損の元凶にもなりえるもので、不合理なものではありますが、誰しもが多かれ少なかれそうだ、ということになるようです。

 しかも、いまどきの保有効果は、新たなメカニズムを伴って、もっと厄介な領域に進んでいます。

保有効果とイケア効果とフィードバック効果

 保有効果があると、それにアンカーされる私がいて、そのアンカーによってさらに保有効果が強化されることがあります。たとえば、保有効果によってあることへの投入時間(あるいは労力)が多くなると、こんどはその投入時間にアンカーされる(イケア効果)、ということが起きてきます。

 これは、放っておくと、イケア効果により保有効果が増し、保有効果が増すことでイケア効果がより大きくなる、という自律的に大きくなっていく性質があるのです(フィードバック効果)。どんどんのめり込んでいく、あるいはどんどん収集物が増えていく、といった現象としてあらわれてきます。この連鎖は、さきほどのエジソンの例を思い出すまでもなく、ちょっとしたホラーのような恐ろしさ、不気味さがあります。もしかしたらサッカーチームの監督であっても、自身の心血を注ぎ続けた戦術(アイデア)にこだわるあまり、チームの勝利の可能性を狭める可能性があるかもしれません。

 ただ、この回路が、もっともっと速くなる可能性があるとしたら、みなさんはどのような感想を持つでしょうか。

 たとえば株や為替の取引は、いまや高度にネットワーク化されています。ネット上のギャンブル、あるいはギャンブル的な要素を持つバーチャルなゲームでも同様ですが、自身の持っているポジション(注文やステイタス)に過度にこだわってしまうということになりやすい環境は整っていると思います。そうすると、自身が想像もしていなかった領域にまで手を広げてしまう可能性がより高まってしまいます。そうなると、我を忘れて事前に許容度としていた損切りが実行できなくなったり、追加の投資もどんどんしてしまうかもしれません。マーケットの参加者がある銘柄に引き寄せられたら、みんながそのように振る舞う(ハーディング)ことで、さらにその度合いは高まってしまうかもしれない。

 そして、理論的にはありえないプライスがついた(オーバーシュート)あとに、急激に収斂(しゅうれん)が起きたなら(暴落)、逃げ遅れた人は、負けの込んだギャンブラーとなって、次の「祭り」(オーバーシュート)を待望するようになるかもしれない......。

 これはまた、コミュニケーションにも言えることです。たとえばSNSでフィードバック効果が高まった場所で、観察効果も加わった環境で、感情がエスカレートしてしまう。そして、それが手紙と電話しかなかった時代には起こりえなかったスピードで実現してしまい(いわゆる"炎上")、全体として世の中がカッとなってしまいやすいように見えるとしても、行動経済学的には頷ける話ではあります。

 これほど複雑怪奇かつ厄介きわまりない認知バイアスの連鎖に、私たちはどう立ち向かえばいいのでしょうか。

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