経済学的にありえない。

負けが込むと強気になるのはなぜか 佐々木一寿氏

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 目をつぶっていた人は、リファレンスポイントから動いていない、とも言い換えることができそうです。リファレンスポイントとは、プロスペクト理論における、損得の分岐となる基準点(ゼロ地点)といったものなのですが、目を開いていた人は、おカネが得られたときと、失われたときに、このリファレンスポイントからの移動がそれに応じて起きたのであれば、結果的に同じであっても、心理的な損得は違っていてもおかしくありません。

 「目を開いてる/閉じている」に関しては非常に明示的ですので当たり前のように思うかもしれませんが、これがたとえば、心理的な重みづけの有無だとしたら、かなり微妙なさじ加減になってくると思います。

 たとえば、他の人のゲームだと思って見ていたことが(リファレンスポイントから動かない)、実は自分のおカネに関するものだったとしたら(リファレンスポイントから動く)、ずいぶんと心理的状況は変わりそうです。そして、もう少し敷衍(ふえん)すると、私たちの身の回りには、自身が関係しそうなことと関係しなさそうなことの境目は、かなり曖昧なことが多いとなればどうでしょうか。

 しかも、それは時間とともに変わってくるかもしれないとしたら、やっかいこの上ないという印象を持ったとしても、無理もないのではないかと思います。

負けたギャンブラーは損を認めたくないがゆえに強気になる?

 このリファレンスポイントの観点から見ると、損をした場合はそうとうのダメージを被ることになります。もしかしたら多少の金額のリターンではそれを埋めにくいかもしれません。あるいは、かつてのゼロ地点(リファレンスポイント)にいたならばどんなにいいだろうと、後悔とともに夢想してしまうかもしれません。つまり、現状の地点を新しいゼロ地点と考えられず、元のリファレンスポイントの位置を基準にいまを見てしまうことを続けてしまうかもしれないとすれば、これは切ない話です。

 損をしたギャンブラーは、負けた自分を認められず(認めたらリファレンスポイントは現地点ベースになります)、その屈辱の払拭を目指して、せめてゼロ地点までの挽回をしたいと思って強気を貫いてしまう心情は、ギャンブラーでない人にとっても理解できるかもしれません(プロスペクト理論における急速に上昇する"強気の曲線"の部分)。ちなみに、この心理を「ブレークイーブン効果」と呼んだりしますが、気持ちが損得判断に影響を与える「気質効果」(心理的会計、メンタルアカウンティングとも)の代表的なものです。

 さらには、私たちは、追加的な利益や損に対して、嬉しい、悲しいという感覚がどんどん鈍っていくようなのです。同じ量の利益や損であっても、それに慣れてしまうのか、当初よりもありがたみや苦痛を感じにくくなってしまうことが、プロスペクト理論の図によっても示されています。負けの込んだギャンブラーで言えば、痛恨の記憶は残っていて、それを挽回したいと強く思っていたとして、追加的な賭け金を失うことにどんどん慣れていって麻痺してしまうとすれば、ズルズルと深みにはまってしまう危険性が高いのではないでしょうか。

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