経営の失敗学-ビジネスの成功確率を上げる

その価値、顧客が求めていますか? 一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授 菅野 寛

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 その点で、意外なニーズをうまく見つけ出せたのが、ある女性向け下着メーカーです。このメーカーはフォーカスグループで女性を集めて下着に関するニーズを聞いても、ありきたりのコメントしか引き出せず、新製品開発のヒントが得られずに困っていました。そこで女性だけのプロジェクトチームを作って、ユーザー訪問を行いました。ユーザーの家を訪ね、引き出しの中の下着を見せてもらい、実際に一つひとつの下着を取り出して、どんなときに着用するかを話してもらったのです。

 すると、会場では決して話に出てこないリアルな実態が次々と明らかになりました。ユーザーは、デートの日にはセクシーな勝負下着、そうでない日はおしゃれよりも、履き心地のよい木綿製の下着、というように、明確に下着を使い分けていました。

 ところが、困ってしまうのは、彼と出かけてセクシーな夜になるかどうかがわからない日です。このような会話から、「どうなるかわからない日」のために、木綿でそこそこ心地よいけれども、デザインはセクシーな下着という、満たされないニーズが浮上してきました。そして、実際にこのニーズに対応する商品を開発したところ、大ヒットとなったのです。

競合が誰かを勘違いしてしまう

 経営の教科書ではおなじみの3C分析では、顧客(Customer)、自社(Company)、競合(Competitor)を見ていきます。では、あなたのビジネスで、競合とは誰でしょうか。そんなことはわかり切っていると思われるかもしれませんが、これが意外と難しいのです。

 競合というのは、似たような製品やサービスを提供している、いわゆる「同業他社」だけではありません。したがって、おなじみのライバル会社だけを想定して、いくら精密に3C分析を行ったとしても、不十分である可能性があります。

 本当にウォッチすべき競合とは「顧客が考える他の選択肢」です。すなわち、あなたの顧客が、あなたの製品・サービスを買おうか、それとも全く別カテゴリーのAという製品・サービスを買おうかと、両者を天秤にかけて迷っているのであれば、当然ながらAはあなたの競合になるのです。

 日本の家庭にまだ電子レンジやオーブンが普及していなかった時代の耐熱ガラス食器メーカーの話です。このメーカーは自社の競合を他の食器(陶器の食器や耐熱でないガラス食器など)と考えていました。そこで、「耐熱ガラス食器は他の食器と違って、そのままオーブンや電子レンジに入れても料理ができる」と、自社製品の優位性を顧客にアピールしていました。

 ところが、よくよく調べてみると、耐熱ガラス食器が売れるのは、お中元とお歳暮の時期に集中していたのです。お世話になった人にお中元やお歳暮として何を贈ろうかを考えているときに、1つの候補として挙がってくるのが、「普段自分から買おうとは思わないが、贈られたらそれなりに嬉しいもの」です。当時は電子レンジやオーブンがまだあまり普及しておらず、耐熱ガラス食器を自分で買おうと思う人は、それほど多くはいませんでした。とはいえ、持っていれば何となくオシャレに見えるので、もらう分には嬉しい品物でした。

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