経営の失敗学-ビジネスの成功確率を上げる

その価値、顧客が求めていますか? 一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授 菅野 寛

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 ところが、みんなそれなりに調べているつもりですが、それでもうまくいかないケースは多々出てきます。たとえば、あるカミソリ・メーカーがインド市場向けの商品を開発したときのことです。同社はもともとアメリカが本拠なので、まず、アメリカ在住のインド人を集めてフォーカスグループ・インタビューを行い、試供品を作りました。ところが、インド現地の人々には、全く受け入れられませんでした。というのも、アメリカ在住のインド人とインド在住のインド人とでは、カミソリを使うときの環境が全く違っていたからです。

表面的な調査で顧客の求めている価値はわかっていると思い込む

 インドでは照明が暗く、薄暗い中で髭を剃るので、カミソリの安全度をかなり高めることが重要でした。その一方でインド人は、アメリカ人ほどきれいな剃り跡であるかどうかを気にしません。その結果、アメリカ市場で高く評価されていたそのメーカーの4枚刃や5枚刃カミソリは、見向きもされなかったのです。

 リサーチを行うのなら、アメリカ在住のインド人ではなく、インド在住のインド人を対象にしなくてはなりません。ここでつまずいてしまったため、そのメーカーは開発した商品を作り直さなくてはなりませんでした。

 ある血圧計メーカーも、インドで想定外の状況に出くわしました。このメーカーは先ほどのカミソリ・メーカーとは違って、ちゃんとインドに出向いて、現地のインド人を集めてフォーカスグループ・インタビューを行い、製品開発のための情報収集を行いました。現地のインド人を集めて会場に来てもらい、会場で実際に血圧計を使ってもらい、顧客がいかに血圧計を使うのかもじっくり観察したのです。ところが、実際の家庭での使われ方はまるで違っていたのです。

 同社は商品を設計するとき、テーブルの上に装置を置き、腕を載せて、血圧を計測することを前提としていました。しかし、インドの大衆の家庭には、そもそもテーブルがなかったのです。食事もテーブルではなく、床に座って食べていました。家庭で血圧を測る場合、手に持ったままだったり、ソファーに置いたり、床にしゃがみこんだりすることになりますが、それではなかなか正確なデータはとれません。フォーカスグループ・インタビューの調査会場にはテーブルがあったので、家庭と同じような使い方をする人はいなかったため、そんな問題があるとは全く気づかなかったのです。

 顧客ニーズを把握するのは当たり前で、入念な調査をしているつもりでも、このようなことが起こってしまいます。通常のフォーカスグループでも、その場で話すことと、実際にやることは違っている場合が多いので、現場と同じ環境で実際の行動を観察することが重要です。この考えを「Lionin the wild」(野生のライオン)という表現で説明する人もいます。これは、動物園の檻の中にいるライオンを観察しても、ライオンの本当の行動はわからない。自然の中で暮らしているライオンを観察しなくては駄目だ、ということを指します。

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