経営の失敗学-ビジネスの成功確率を上げる

その価値、顧客が求めていますか? 一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授 菅野 寛

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 このような勘違いは、特に技術者が起こしてしまう傾向があります。2000年ごろにさかのぼりますが、私はあるカメラ・メーカーの事業本部長と話をする機会がありました。当時、市場が伸びていた「デジカメ」(DSC、デジタル・スチール・カメラ)に対して、カメラ付き携帯電話がこれから脅威になるのではないかと、私は指摘しました。

 すると、その事業部長は「それは絶対にありませんよ」と言い切りました。「あんなものはおもちゃです。性能は悪いし、本物のカメラとは雲泥の差です」と、まったく取り合わなかったのです。

カメラの提供価値は何か――DSC vs カメラ付き携帯

 この連載を執筆中の2014年現在、少なくとも私はほとんどデジカメを使わなくなり、カメラ付き携帯電話による撮影(いわゆる「写メ」)を重宝しています。

 理由は2つあります。1つは、技術進化によって携帯電話に付いているカメラ機能の性能が良くなり、ほとんどの目的には「写メ」で用が足りるようになったからです。もう1つは、顧客が求めている価値です。きちんとしたカメラで精度の高い写真を撮るニーズは今でもあるのですが、それに勝るとも劣らないのが、手軽にさっと撮ってメモ代わりにしたいというニーズです。

 メモ代わりなので、読める程度の解像度があれば構いません。あるいは、手軽に撮ってすぐに誰かに送って見せたい、自分のPCに取り込みたい、というニーズもあります。その場合は通信機能の付いたカメラのほうがよいわけで、まさにカメラ付き携帯電話がそのニーズにぴったりです。

 このように写真を撮ることによって提供している価値は複数あり、少なくとも私の場合、求めている価値のかなりの部分は、カメラ付き携帯電話で十分に間に合うのです。

 ここで興味深いのは、その事業部長さんも本当は多様なニーズがあることを承知していたことです。それでも、カメラの技術者としては信じたくないという気持ちが強くて、性能の劣るものの開発には食指が動かなかったのでしょう。

 これは、ハーバード・ビジネス・スクールのクリステンセン教授が「破壊的技術」として体系化している話でもあります。後から出てきた品質の劣る技術に対して、先行する高い技術を持っているプレイヤーは脅威ではないと思い対応しなかった結果、後からひっくり返される、ということが起こってしまうのです。

 最近は、新興国向けビジネスに注目が集まっています。もちろん、新興国のニーズは先進国とは違うので、どの企業もセオリー通りに、リサーチはしっかりと行います。

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