経営の失敗学-ビジネスの成功確率を上げる

"勝手読み"という詰めの甘さが失敗の原因 一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授 菅野 寛

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 今回は戦略の「筋が通っていない」という失敗についてお話ししたいと思います。

なぜ戦略不在の企業がいまだに多いのか?

 まずは戦略の筋が通る、通らない以前の問題として、そもそも戦略不在の企業もいまだに多く見受けられます。その理由として、高度成長期はとうの昔に終わったにもかかわらず、依然として高度成長期の「頑張りのみで突っ走る」という価値観を持っているトップがいるからでしょう。

 彼らが一番頑張っていた全盛期の1970年代、80年代には、ほとんどのビジネスでは放っておいても市場自体が成長していたので、他社と同じ、すなわち「同質化競争」でもそれなりに市場と同じペースで自社のビジネスが成長できる場合が多かったのです。したがって競合他社が時速100kmなら、うちは120kmで頑張って走ればよい、モーレツ社員さえいて足腰を強くしていけばよい、という風潮がありました。

 要するに戦略不在です。そのときの成功パターンがなかなか忘れられないのかもしれません。また、そういう時代が終わったことがわかっていて戦略を作ろうとしても、慣れていないので詰めが甘くなってしまうことが考えられます。その詳細は次回で紹介します。

戦略に必要な要素とは

 戦略不在と申しましたが、そもそも戦略とは何なのでしょうか。戦略に関しては統一された定義がありません。多くの研究者や経営者が様々なことを述べています。ここで定義論に時間を費やしても意味がないので、1つの定義を引用して考えてみましょう。以下は、『競争戦略論』(青島矢一、加藤俊彦、東洋経済新報社)からの引用です。

 戦略とは、企業の将来像とそれを達成するための「地図」である。

 より平易な表現をすれば、

・個々の企業が「どうありたいか」を考え

・その理想とする状態に「いかにしてたどりつくか」

ということである。地図には以下の3つの要素がある。

・目的地:企業としてどうありたいか

・ルート:どうやって目的地にたどりつくか

・視点:何を重要と考えるか

 この定義を使うと、戦略には「目的地」「ルート」「視点」の3つが必要になりますが、ここで早くも戦略の難しさが垣間見えてきます。というのは、3要素のすべてに対して唯一絶対の解は存在しないからです。

 まず1つ目の「目的地」ですが、企業にとっての目的地は1つとは限らず、複数の異なるオプションがあり得ます。どこを目指すかは一義的には決まりません。目的地そのものが企業にとって選択の余地のある要素なのです。2つ目の「ルート」も同様で、仮に同じ目的地を目指す場合であっても、そこに至るルートは複数あるはずです。

 3つ目の「視点」ですが、同じ場所を記した地図でも、道路地図か、住宅地図か、レストランの案内図かという「視点」の置き方ひとつで、全く違う地図になります。道路地図なら、一方通行などの交通規制や混雑状況というように、ドライバーに必要な情報が記されるでしょう。レストランの案内図なら、途中で目印になる建物や要素が表されるかもしれません。つまり、視点によってどの情報を取捨選択して地図に載せるかが違ってくるのです。

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