経営の失敗学-ビジネスの成功確率を上げる

成功は学べない――アパレル3社に見るモデルの違い 菅野寛氏

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 成功した企業のやり方が唯一絶対の正解ではありません。複数の解の1つを実行して、"たまたま"成功した他社の事象を「後付け」で分析し、成功要因を抽出することはできても、それが、本当に再現性があるかどうかは甚だ疑問です。特に、成功した企業の状況(コンテクスト)と自社独自の状況が違うため、同じことを実行しても、成功した企業と同じように成功するとは考えにくいものです。

ビジネスはアートである

 たとえば、部品メーカーA社とB社の話です。A社は大量注文を受注することに長けており、規模の経済性を利かせて製造単価を下げて高い利益を上げて成功していました。それを横目で見ていたB社は、何とか我が社も大量注文を取って大きな売上を獲得したいと考えていました。

 B社は大量に注文を取ることは得意ではありませんでしたが、別の得意分野がありました。どんなに複雑な形状の部品でも注文通りに正確に作り、高い品質で納品して顧客から高い評判を得ていました。顧客の要求水準が高いため、どんな注文にも応えることができる腕の高い職人を揃えていました。また、1回ごとに製品の形が違うので、いろいろな形に対応できる汎用性の高い工作機械も自社開発して用いていました。難易度の高い注文なので受注単価が高く、高い利益率を享受していましたが、毎回の受注量はそれほど大きくないので、売上ではA社の数分の1程度に甘んじていたのです。

 そんな折に、このB社の評判を聞きつけたある企業から大量の注文が舞い込んできました。形状は比較的シンプルなので、それほど高い技能がなくても作ることができる注文です。ところが普段の注文は数十個なのに、数千個という2桁違いの多さでした。

 一般的な理論からすれば、大量生産をすれば、製品1個当たりの単価が低減するため、より利益率が高まります。もちろんA社のように事業規模を大きくしたいと思っていたB社にとっては喜ばしいことなので、喜んで注文を受け、張り切って製作に取り組みました。

 ところが、その結果は惨憺(さんたん)たるものでした。シンプルな形状の部品を大量に作る場合、同じ単純作業を繰り返していきます。そうなると、それほど技能のない人でも、同じ作業を何百回も繰り返しているうちに学習し、それなりにこなせるようになります(BCGの創業者ブルース・ヘンダーソンが提唱した「経験曲線効果」です)。

 一方、腕の高い職人にとって、同じことを何百回もやらされるのでは、やりがいがありません。技能の低い人でもこなせる仕事なので、プライドも傷つくばかり。その上、技能の低い人なら低コストで雇えるのに、技能の高い高コストの職人を張り付ければ、不必要に製造コストが上がってしまいます。また、仕事と給料とのミスマッチが起こり「あいつはあんな単純な仕事をやっているのに、なぜあんな高給をもらっているんだ」という妬みも起こり、社内での軋轢(あつれき)が生まれます。

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